世界初!C型肝炎患者の腸内フローラ異常を解明 〜腸内フローラの正常化による肝炎悪化・肝がん予防の可能性〜

2018-07-19
リンク

ヒトの腸内には100兆個を超える腸内細菌が棲みつき、複雑な生態系を形成し「腸内フローラ」と呼ばれています。

腸内フローラは私たちの健康の維持や病気の予防などに関与しており、腸内フローラの乱れは健康に悪影響を及ぼすことが示されています。

私たちの腸内で腸管や免疫系に重要な働きをする常在菌が減少し、腸内フローラを構成する細菌の種類が減少し、その代わりに普段増加しない菌種が異常に増殖することは、腸内フローラの破綻を意味しているそうです。

今回、名古屋大学は病期の異なるC 型肝炎患者の腸内フローラを解析し、その特徴と体への影響について解明を試みました。その結果、C型肝炎ウイルスの持続感染が腸内フローラを変化させ、病状が悪化するにつれて腸内フローラの破綻が進むことを世界で初めて証明することに成功しました。これは、同大学や九州大学、奈良県立医科大学、愛知医科大学との共同研究による成果です。

連載「腸活ニュース 」

記事一覧をみる

C型肝炎って何?

まず、C型肝炎についてご説明します。
C型肝炎はウイルス性肝炎の1つで、C型肝炎ウイルスに感染することで発症します。肝臓は「沈黙の臓器」と言われており、無症状の場合があるため見逃されやすく、約50〜80%が慢性肝炎に移行する可能性があります。そのまま治療しないと、10〜30年後に肝硬変や肝がんに移行しやすいとも言われています。

近年、C 型肝炎の治療は劇的に進歩し、今まで使用されてきた注射薬(インターフェロン)を使わず、飲み薬 (直接作用型抗ウイルス薬)の組み合わせによりほぼ 100%ウイルスを排除できるようになりました。
しかし 肝硬変に至った患者では、ウイルスを駆除しても傷つけられた肝臓を完全に修復することは困難です。腸は血液の循環経路から肝臓とつながりが深く、非代償性肝硬変(※1)の患者では高アンモニア血症の予防・治療のために、抗生剤を用いて腸内フローラの改善が試みられてきたそうです。

※1 非代償性肝硬変:重度の肝硬変で必要な肝臓の働きが失われた状態で、様々な合併症(症状)があらわれる。

肝機能正常なHCVキャリアでも、腸内フローラに変化が現れている

今回の研究では、
健常人23名と病期の異なるC型肝炎患者166名(肝機能正常のHCVキャリア(※2)、慢性肝炎、肝硬変、肝がん)の便検体・臨床情報を収集し、腸内フローラの特徴を解析しました。

その結果、
① PNALT(肝機能正常HCVキャリア)の時点ですでに腸内フローラに変化が現れており、一時的にバクテロイデス属や腸内細菌科の細菌が増加している。
② PNALT、慢性肝炎、肝硬変、肝がんと病期が進むにつれて腸内フローラを構成する菌種が減少し、レンサ球菌属のストレプトコッカス・サリバリウス※3)などが腸管内に増加して、腸内フローラの破綻が見られる。
ということがわかりました。

円グラフの赤色(矢印)がレンサ球菌属の比率が増加しています。
※グラフには代表的な菌名のみ記載。

さらに、腸管内で増加しているレンサ球菌の細菌は、ウレアーゼ(※4)遺伝子を持っていることがわかりました。実際の便を検査すると、病気が進むにつれてpHが上昇し、アルカリ性に傾いていることがわかり、便中アンモニアの増加が予測されました。
このことから、C型肝炎の病期の進行につれて腸内フローラが破綻し、腸管内で異常に増殖した細菌がアンモニアの増加を引き起こしている可能性があるそうです。
そして、腸管から吸収されたアンモニアが血液中に増加すると高アンモニア血症・肝性脳症の原因となることから、ストレプトコッカス・サリバリウスなどのアンモニア生産菌は病期の進行に関与している可能性が示唆されたそうです。

※2  HCVキャリア:C型肝炎ウイルスに感染している人のこと。
※3 レンサ球菌属のストレプトコッカス・サリバリウス:細菌の一種。レンサ球菌の多くは、体内や体表に害を生じることなく住み着いている。
※4 ウレアーゼ:尿素を加水分解して、アンモニアと二酸化炭素を作り出す酵素。

血中のアンモニアが高くなるとどうなるの?

① アンモニアは、食物などに含まれるタンパク質が腸管内で腸内細菌(アンモニア生産菌)によって代謝される際に発生する。腸管から吸収されたアンモニアは門脈から肝臓に入り、通常は無毒化される
② しかし、腸内フローラの破綻によるアンモニア生産増加に併せて肝硬変などで肝臓の解毒能が低下した状態では、血液中のアンモニア濃度は上昇し、血流を介して脳に達し、肝性脳症を発症する

肝性脳症になると、全身倦怠感や食欲不振が現れ、悪化すると昏睡状態となり、最悪死に至る怖い病気です。

腸内フローラへの早期アプローチが病気進行を抑える可能性

これまでC 型肝炎病初期(PNALT や慢性肝炎)の腸内フローラに関する報告はなく、また本研究のように腸内フローラの変化を病期別に解析した研究もなかったそうです。
この成果により名古屋市立大学は、ストレプトコッカス・サリバリウスなどのアンモニア生産菌を抑え込むことが高アンモニア血症・肝性脳症の予防や治療につながるとともに、より早期からの腸内フローラへの介入(プロバイオティクス※5摂取や投与、適切な抗生剤の投与、口腔 ケアなど)が病期の進行・肝癌を抑える可能性が期待でき、新規の治療法の開発も期待できる、と今後の展望を掲げています。

※5 プロバイオティクス:ビフィズス菌のように、腸内フローラのバランスを改善して有益な作用をもたらす生きた微生物のこと。


【原著論文】
本研究は、Infectious Diseases Society of America(米国感染症学会)の電子版雑誌「Clinical Infectious Diseases(クリニカル・インフェクシャス・ディジーズ)」で 2018年5月1日に公開されています。
論文タイトル:Gut dysbiosis associated with hepatitis C virus infection (C型肝炎ウイルス感染に伴う腸内細菌叢異常)
筆者:Takako Inoue1, Jiro Nakayama2, Kei Moriya3, Hideto Kawaratani3, Rie Momoda2, Kiyoaki Ito4, Etsuko Iio1, Shunsuke Nojiri1, Kei Fujiwara1, Masashi Yoneda4, Hitoshi Yoshiji3 and Yasuhito Tanaka1
共同研究:協力施設:名古屋市立大学, 九州大学,奈良県立医科大学, 愛知医科大学

参考文献

1.世界初!C 型肝炎患者の腸内フローラ異常を解明~腸内フローラの正常化による肝炎悪化・肝がん予防の可能性~PR.Times.   http://www.nagoya-cu.ac.jp/about/press/press/release/files/20180501/300501.pdf (最終アクセス:2018年7月12日)

2.一般社団法人:日本肝臓学会.学会発酵冊子「肝臓病の理解のために C型肝炎」http://www.jsh.or.jp/files/uploads/3-HCV.pdf(最終アクセス:2018年7月12日)

3.厚生労働省:肝炎ウイルスキャリア 診療の手引きhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou09/05.html(最終アクセス:2018年:7月12日)

4.MSDマニュアル家庭版:レンサ球菌感染症 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/ホーム/16-感染症/細菌感染症/レンサ球菌感染症(最終アクセス2018年:7月12日)

この著者の他の記事を読む

似た腸活キーワード

関連記事

Facebook Twitter リンク

ページトップへ戻る