便秘は腸内細菌のバランスが乱れ、善玉菌が減っている証拠です。食物繊維を多く含む食事を摂ると腸内細菌のバランスが整って便秘が改善されるだけでなく、ダイエットにも効果的といわれています。しかし、食物繊維がなぜダイエットに効果的なのでしょうか。今回は、食物繊維と腸内細菌、そしてダイエットに関する研究を2つ紹介します。
今さらだけれど、食物繊維は便秘によい
食物繊維は、善玉菌のえさになるので腸内細菌のバランスを整えます。また、食物繊維の多い食事はお腹もちもよいので、ダイエットに効果的で、大腸がんの予防にもなります。そして、食物繊維を多く摂ると便秘を防ぐ効果があります。実際に、今までの食物繊維と便秘に関わる研究を検証した論文では、食物繊維を多く摂ると便秘の症状だけでなく、排便痛や排便回数、1週間の排便の頻度、排便と排便の間隔すべてにおいて改善することが明らかになっています。 美容や健康に興味がある方は、すでに食物繊維が便秘やダイエットに効くという情報を知っていたかもしれません。 しかし、なぜ食物繊維を摂るとダイエットになるのでしょうか。腸内細菌はどのようにダイエットに効果的に作用しているのでしょうか。これらの疑問に答える研究が、有名な科学誌である「Cell」に掲載され話題になりました。なぜ食物繊維が健康に良いかという謎が明らかに
食物繊維は肥満や糖尿病の予防になり、実際に体重減少や便秘の改善に役立つことが明らかになっています。そのため、食物繊維を多く含む食品も販売されています。しかし、なぜ健康に良いかということは医学的にわからない部分もありました。フランスとスウェーデン、デンマークの共同研究チームが、食物繊維が健康に良い理由を腸内細菌のはたらきと合わせて明らかにしたので紹介します。 研究チームは、食物繊維が腸内で腸内細菌によって分解されプロピオン酸と酪酸(らくさん)とよばれる短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)に変換されることに注目しました。研究では、プロピオン酸と酪酸が体にどのように作用するか明らかにしています。 まず、酪酸は腸管の細胞に直接作用して腸でのブドウ糖の産生に関わることがわかりました。一方で、プロピオン酸は腸内でブドウ糖を作り出す原料になっているだけでなく、神経を通して脳へ電気信号を送り、脳が腸内でブドウ糖を作るようにはたらくことが明らかになりました。 食物繊維を多く含む食事を摂れば、食後に時間が経っても腸内でブドウ糖が作られるので、血糖値の急激な上昇や低下をさけることができます。血糖値が食後に急激に上昇し、その後低下すると膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの変動が大きくなります。インスリンは血糖値を低下させるホルモンで、体の中の血糖値を正常に保つために必要です。しかしインスリン分泌の変動が大きいほど、空腹を感じやすく、食欲が出ると考えられています。 つまり、食物繊維を多く摂れば腸内細菌によってプロピオン酸と酪酸が産生され、腸内のブドウ糖濃度が保たれるようになります。そして、分泌されるインスリンの変動が少なくなり、結果として食欲が抑えられ、ダイエットにつながるということが明らかになりました。腸内細菌が作り出す物質を薬にしたら、やせた!
食物繊維を腸内細菌が分解すると、プロピオン酸と酪酸とよばれる体によい物質が酸性されることがわかりました。 次に紹介する論文は、腸内細菌が作り出すプロピオン酸に注目し、薬としてヒトに投与し、本当にやせるか検証しています。 イギリスの研究グループは、プロピオン酸をイヌリンとよばれる物質と結合させた、「イヌリン-プロピオン酸エステル」を作成しました。イヌリン-プロピオン酸エステルの興味深い点は、内服後に腸まで届くと、腸内細菌によってイヌリンとプロピオン酸に分解されるので、その時に初めてプロピオン酸の効果が発揮されるところです。 研究グループは、肥満の傾向がある成人60人を対象にしてイヌリン-プロピオン酸エステルを飲むグループとプロピオン酸を含まない偽のサプリメントを飲むグループの2つにわけました。研究対象になっている人には、自分がイヌリン-プロピオン酸エステルを内服しているか、偽物を内服しているかは明らかになっていません。1日10gのサプリメントとして24週間、内服を続けた後に体重や腹部の脂肪の分布などがどのように変化するか観察しました。 結果としては、イヌリン-プロピオン酸エステルを飲んだグループにおいて、体重減少だけでなく、腹部の脂肪組織分布、肝臓内の脂肪量が低下していました。 今回の研究は、初めてヒトに対して腸内細菌によって産生されるプロピオン酸を投与し、体重減少を認めたという点で画期的でした。さいごに
食物繊維を食べると、腸内細菌によってプロピオン酸や酪酸が産生され、血糖値の変動がゆるやかになり、ダイエット効果があることが明らかになりました。実際に、サプリメントとしてプロピオン酸を飲んでも同じように体重減少を認めたのは興味深い結果といえます。 今後、やせ薬の1つとして肥満や糖尿病の患者さんの治療薬になる日がくるかもしれません。参考文献
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(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25500202)
医者 大塚真紀
腎臓、透析、内科の専門医。医学博士。
現在は夫の留学についてアメリカに在住。アメリカでは専業主婦をしながら、医療関連の記事執筆を行ったり、子供がんセンターでボランティアをして過ごしている。
アメリカにいても医師という職業を生かし、執筆を通して患者さんやその家族のために有益な情報を提供できたらと願っている。