がんは日本人の2人に1人が発症し、3人に1人ががんで亡くなっています。2015年の統計調査では、大腸がんは女性の死因のトップになり、男性においては第3位です。
大腸がんの原因は、遺伝や食生活の欧米化、生活習慣など多岐にわたりますが、最近では腸内細菌の影響が注目されています。
今回は、腸内細菌が大腸がんの発生にどのように関わっているか明らかにした研究を紹介します。
大腸がんの人の腸内細菌の特徴
健常な人の腸内では、善玉菌、悪玉菌、日和見菌という大きく分けて3つのグループの細菌がバランスよく共存しています。しかし、腸内細菌のバランスが崩れて悪玉菌の割合が増加すると便秘や下痢という症状が起きます。 また、最近では腸内細菌の乱れが肥満や糖尿病、アレルギー疾患、がんなどの病気の原因になると注目されています。 アメリカの研究チームは、44人の大腸がんの人の大腸と正常な大腸の腸内細菌を解析しました。すると、大腸がんの粘膜組織においてFusobacteriumやProvidenciaとよばれる腸内細菌が多く発見されることがわかりました。 一方で、今までのいくつかの研究では、ある種の病原性大腸菌、Streptococcus bovis、Clostridium cocoidesなどが大腸がんの組織において多く見つかることが報告されています。 そして研究が進み、近年では腸内細菌がどのように大腸にがんを発生させるかが解明されてきています。腸内細菌が大腸がんを引き起こすメカニズム
アメリカの研究チームは、腸炎を起こすマウスを使用した研究で、ある種の大腸菌を感染させると大腸がんを発症することを明らかにしました。大腸菌は、今までの研究で大腸がんの患者において増加を認める腸内細菌の1つとして認識されています。 一方で、同じ腸炎のマウスにフェーカリス菌を感染させてもがんの発症を認めることはありませんでした。 研究チームは、さらに研究を進め、大腸菌にはDNAにダメージを与えてがんを引き起こすタンパク質を合成する能力があることを明らかにしました。 つまり今回の研究で、炎症によって腸内細菌のバランスが変化し、大腸菌などの腸の粘膜にがん化を促進するような特定の腸内細菌が増殖することで大腸がんを発症する可能性が示唆されました。 カナダの研究チームも、炎症が腸内細菌のバランスを崩し、大腸がんを引き起こすことを指摘しています。がんになりやすい遺伝子をもっているマウスを使用した研究で、腸内細菌が産生する酪酸(らくさん)によって腸管の粘膜の細胞を異常に増殖させ、がん化を引き起こすことを明らかにしました。 大腸がんは遺伝子や食事、腸内細菌などが原因となるといわれていますが、今回の研究で複合的に腸管の粘膜のがん化が引き起こされている可能性が示唆されました。 日本の研究チームは、大腸がんに付着した腸内細菌が腫瘍内で炎症反応を起こし、免疫反応を誘導することによってがんの増殖を促進することを明らかにしています。研究チームが腫瘍内に入り込んだ腸内細菌を分析すると、大腸がんにおいてFusobacteriumとよばれる腸内細菌を多く認めることがわかりました。 Fusobacteriumは、大腸がん患者の腸管粘膜に多く認められる細菌として注目されている菌です。さいごに
大腸がんの人の粘膜組織には、正常組織に比べてある種の腸内細菌が多いことがわかりました。また、それらの腸内細菌がどのように大腸がんを引き起こすかも明らかになってきています。 腸内細菌の変化を大腸がんの発症前または早期の段階で捉えて、大腸がんを予防または早期発見できる可能性が期待されます。 また、腸内細菌が大腸がんの治療のターゲットにできるのではないかと注目されています。参考文献
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(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27111280)
医者 大塚真紀
腎臓、透析、内科の専門医。医学博士。
現在は夫の留学についてアメリカに在住。アメリカでは専業主婦をしながら、医療関連の記事執筆を行ったり、子供がんセンターでボランティアをして過ごしている。
アメリカにいても医師という職業を生かし、執筆を通して患者さんやその家族のために有益な情報を提供できたらと願っている。