赤ちゃんが何をしても泣き止まない!と困ったことのあるお母さんやお父さんも多いのではないでしょうか。赤ちゃんの泣く時間によって夕方頃であれば黄昏泣き、夜や夜中に泣くのであれば夜泣きなどとよばれることがありますが明確な原因は不明でした。
しかし、最近のいくつかの研究で腸内細菌が関連するお腹の痛みが原因の1つではないかと考えられています。
今回は赤ちゃんの夜泣きと腸内細菌に関する研究を紹介します。
赤ちゃんの腸内細菌と夜泣き
赤ちゃんは、生まれた時には腸の中は無菌であると考えられています。出産を通してお母さんや病院などで菌をもらい、母乳やミルクを飲むことによって腸の中に腸内細菌が住みつきます。生後まもなくは乳酸菌やビフィズス菌など善玉菌が多いです。
6か月頃から始まる離乳食によって腸内細菌の種類が劇的に増え、2歳ごろまでに大人と同じくらいの腸内細菌のバランスが確立されます。
多くの親を悩ませる夜泣きですが、原因は未だによくわかっていません。
しかし、最近の研究で腸内細菌が確立されていく過程で腸の中でガスが発生して痛いために泣いているのではないかという学説があります。
夜泣きに善玉菌が効く可能性
イタリアの研究チームは、「Pediatrics」誌に乳酸菌の1種であるロイテリ菌を投与すると夜泣き時間を減らすことができると報告しました。
研究チームは母乳で育てられている39名の乳児を対象に、ロイテリ菌を与えるグループとシメチコンという腸内のガスを減らす薬を与えるグループにわけて夜泣きの時間の改善度合いを比較しました。すると、ロイテリ菌を投与した乳児において、1か月間で泣く時間が約1/4に減ることが明らかになりました。
乳酸菌の1種であるロイテリ菌(Lactobacillus Reuteri)は、もともと母乳の中に存在し子どもの腸内に住みつくといわれています。ロイテリ菌は、殺菌作用のあるロイテリンを産生したり、免疫の機能を活性化する作用があるそうです。
今回の研究では、夜泣きに対してロイテリ菌を投与していますが、細菌感染症やアレルギー疾患の予防にも効果があるのではないかと期待されています。
興味深いことに、同研究チームは夜泣きの子どもの10年後にも注目して報告しています。すると、夜泣きを放置された赤ちゃんは10年後にアレルギー疾患や精神的な問題、胃腸障害を起こすリスクが高くなることが明らかになりました。
ロイテリ菌の摂取方法
日本ではまだ一般的ではありませんが、研究結果を受けて世界では赤ちゃんにロイテリ菌の投与を勧める医師もいます。もともと母乳中にいる菌であり善玉菌なので、摂取しても副作用はないといわれています。摂取の仕方はロイテリ菌が含まれる液体をミルクに混ぜる、乳房に塗布して授乳する、離乳食に混ぜる、スプーンで直接飲ませるなどがあります。
ただしロイテリ菌が夜泣きに有効であったとする報告がある一方で、有効でなかったとする報告もあるため現時点では参考程度がよいかもしれません。
さいごに
夜泣きの原因の1つとして腸内細菌の確立に伴うお腹の痛みが考えられるようです。その痛みは胃腸炎を起こしているかのような腹痛といわれるので、赤ちゃんが泣き続けてしまうのは仕方ありません。いくつかの研究報告からは、善玉菌であるロイテリ菌に夜泣きの改善効果を期待できそうです。
しかし、有効でなかったとする報告もあるので今後の研究結果を待って慎重に判断していきたいものです。善玉菌で安全に赤ちゃんの夜泣きが減るのであれば、赤ちゃんだけでなく多くのお母さん、お父さんの負担も減らせるので今後の研究に期待したいです。
参考文献
1) Savino F, Pelle E, Palumeri E et al. Lactobacillus reuteri (American Type Culture Collection Strain 55730) versus simethicone in the treatment of infantile colic: a prospective randomized study. Pediatrics. 2007 Jan;119(1):e124-30.
(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17200238)
2) Savino F, Castagno E, Bretto R et al. A prospective 10-year study on children who had severe infantile colic. Acta Paediatr Suppl. 2005 Oct;94(449):129-32.
(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16214780)
3) Sung V, Hiscock H, Tang ML et al. Treating infant colic with the probiotic Lactobacillus reuteri: double blind, placebo controlled randomised trial. BMJ. 2014 Apr 1;348:g2107. doi: 10.1136/bmj.g2107.
(http://www.bmj.com/content/348/bmj.g2107)
医者 大塚真紀
腎臓、透析、内科の専門医。医学博士。
現在は夫の留学についてアメリカに在住。アメリカでは専業主婦をしながら、医療関連の記事執筆を行ったり、子供がんセンターでボランティアをして過ごしている。
アメリカにいても医師という職業を生かし、執筆を通して患者さんやその家族のために有益な情報を提供できたらと願っている。