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赤ちゃんに抗菌薬を使用すると肥満の原因に!

子どもが風邪をひくと抗菌薬を飲ませなきゃ、と思っている方は多いかもしれません。確かに、子どもは大人よりも免疫力が弱いので感染症が悪化してしまう可能性もあり、抗菌薬を使用することは間違っていません。しかし、抗菌薬は人間にとって大切な腸内細菌も攻撃してしまい、腸内細菌のバランスが崩れて将来的に肥満を引き起こす可能性があるといわれています。

今回は、子どもの時の抗菌薬使用が、腸内細菌と関連して将来的にどのような影響を与えるのか明らかにした研究を紹介します。

Creativa Images/Shutterstock.com

その熱、その風邪に抗菌薬は本当に必要か!?

赤ちゃんが風邪をひくと心配で抗菌薬を飲ませたいと思う親も多く、実際に日本では多くのクリニックや病院で抗菌薬が医師によって処方されています。大人になっても、風邪に対して抗菌薬を希望する方は多いです。 しかし、風邪とひとことでいっても、細菌やウィルスなどによるものがあり、抗菌薬が効くのは細菌によるものだけです。そのため、実際に抗菌薬の必要のない風邪や発熱に対しても処方され内服しているケースが多く、今や日本には耐性菌が増加しています。耐性菌とは、以前は抗菌薬で殺されていた細菌が、頻回の抗菌薬の使用によって徐々に強くなり、今まで効いていた抗菌薬が効かなくなっている菌のことです。耐性菌に感染してしまった場合には、より強い抗菌薬を使用しなくてはならず、副作用が増える可能性があります。また、ど の抗菌薬にも効かない耐性菌に感染してしまった場合には全身に菌がまわって命を落とす可能性があります。 一方で、赤ちゃんや高齢者、心臓病や糖尿病、腎臓病などの基礎疾患のある患者さんは健常な方に比べて免疫力が低下しているので、感染や発熱の原因が細菌かウィルスかはっきりわからない状態でも、重症化するのを防ぐために抗菌薬を使用する時もあります。 つまり、抗菌薬は適切な時に、適切な人に対して、適切な強さのものを使用するのが正しいといえます。例えば、風邪に対して安心のために誰に対しても強い抗菌薬を処方するのは副作用や耐性菌の増加の可能性があり適切ではありません。 では、実際に赤ちゃんに対する抗菌薬使用はどのような影響を及ぼすのでしょうか。腸内細菌の観点からみると、耐性菌の問題だけではなさそうです。

赤ちゃんに抗菌薬を使用すると肥満になる可能性

フィンランドの研究グループは、6114 人の健康な男児と5948 人の健康な女児を対象に、幼児期に使用された抗菌薬による影響を調べました。 結果としては、幼児期に抗菌薬を頻回に使用している子どもは、抗菌薬を使用していない子どもに比べて体重が増加する傾向があることがわかりました。特に、生後6 か月以前に抗菌薬を使用していると体重が増加する傾向が強く見られることが明らかになりました。また、使用された抗菌薬の中でペニシリン、セファロスポリン、マクロライドを比較すると、どんな細菌にも比較的よく効くマクロライド 系抗菌薬において最も体重への影響が大きいことがわかりました(グラフ)。研究グループは、抗菌薬による腸内細菌のバランスの変化により体重が増えやすくなったと考えています。
Antibiotic exposure in infancy and risk of being overweight in the first 24 months of life.を元に引用改変

幼少期の抗菌薬は将来の喘息や肥満を誘発する

最初に紹介した論文で幼少期の使用により最も体重に影響を与えた抗菌薬であるマクロライドに関する研究をもう1 つ紹介します。 研究対象としたのは、2-7 歳までの同じ保育所に通う236 名の幼児で、ほぼ全員母乳育児でした。医師が幼児に対して処方した抗菌薬の処方歴や身長体重、アレルギー歴、そして便に含まれる腸内細菌を調べました。 生後6 か月以内にペニシリンを内服していたグループ、生後6 か月以内にマクロライドを内服していたグループ、最近2 年間は抗菌薬を内服していないがそれ以前に頻回に内服していたグループ、抗菌薬を内服していないグループに分けて、幼児期の抗菌薬の使用と将来的な肥満や喘息との関連を解析しました。 するとペニシリンを内服していたグループに比べて、マクロライドを内服していたグループでは腸内細菌の多様性が減少していました。また、腸内細菌の種類に注目すると、ペニシリンを内服していたグループでは大きな変化がなかったことに対し、マクロライドを内服していたグループではActinobacteria が減少、Bacteroidetes とProteobacteria が増加していました。胆汁酸塩脱水素酵素も減少していました。胆汁酸塩脱水素酵素が減少すると消化管の代謝が減り、肥満や糖尿病の原因になると考えられています。 そして、肥満や喘息との関連をみたところ、生後2 年間にマクロライドを使用しているグループでは他のグループに比べて約6 倍、喘息を発症しやすいことがわかりました。また、最初に紹介した論文と同様に、幼少時にマクロライドを使用した頻度が多い子どもは体重が重い傾向があることが明らかになりました。

さいごに

今回は、幼少時の抗菌薬使用が腸内細菌のバランスを崩し、肥満や喘息などの病気を引き起こす可能性について研究した論文を2 つ紹介しました。感染症に対して抗菌薬は特効薬になりうることもありますが、子どもに対する将来的な影響を考えるとなるべく使用頻度を少なくし、最低限の抗菌薬で治療できるとよさそうです。 今回2 つの研究の結果をみると、マクロライド系抗菌薬が肥満や喘息の原因になるので悪いという印象を受けてしまうかもしれません。しかし、マクロライド系が効く細菌も多々ありますし、小児の場合には医師の指示通りにきちんと内服して早く治す必要もあります。今後、日本人を対象にした研究やより大規模な人数を対象にした研究が行われ、抗菌薬を使用しつつも腸内細菌への影響を抑えるような治療が開発されることが期待されます。

参考文献

1) Saari A, Virta LJ, Sankilampi U et al. Antibiotic exposure in infancy and risk of being overweight in the first 24 months of life. Pediatrics. 2015 Apr;135(4):617-26. doi: 10.1542/peds.2014-3407.
(http://pediatrics.aappublications.org/content/135/4/617)
2) Korpela K, Salonen A, Virta LJ et al. Intestinal microbiome is related to lifetime antibiotic use in Finnish pre-school children. Nat Commun. 2016 Jan 26;7:10410. doi: 10.1038/ncomms10410.
(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26811868)
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