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心臓病や動脈硬化にも腸内細菌が関わっている

動脈硬化は、血管が徐々に硬くなって心筋梗塞などの心臓病や脳卒中の引き金になります。動脈硬化の原因は、高血圧や糖尿病、喫煙などと考えられていました。
しかし、最近の研究で腸内細菌も関係していることが明らかになりました。
今回は動脈硬化や心臓病に腸内細菌がどのように関わっているか示した研究を紹介します。

ESB Professional/Shutterstock.com

放っておくと怖い動脈硬化

動脈硬化は良くない、ということを知っている方は多いかもしれません。動脈硬化とは、高血圧や糖尿病、脂質異常症、肥満、喫煙などで血管の壁が硬くなる状態をさします。 硬くなった血管の壁には余分なコレステロールのかたまりがこびりつき、最終的には血管がつまったり、破裂したりすることがあります。心臓の血管がつまれば狭心症や心筋梗塞などの心臓病を発症し、脳の血管がつまったり破れたりすれば脳梗塞や脳出血が起こります。 動脈硬化によって、腎臓の機能が低下したり、足の血管がつまって手足が壊死してしまうこともあります。動脈硬化の怖い点は、痛くもかゆくもないため、知らない間に病気が進行することです。 今まで動脈硬化は、糖分や脂肪分の多い食事、喫煙、運動不足などの生活習慣が大きな原因と考えられてきました。しかし、なかには生活習慣に関係なく、動脈硬化や心臓病を起こしやすい人がいることがわかってきました。そして、原因として腸内細菌の存在が注目されています

動脈硬化や心臓病に腸内細菌が関わっている

ヒトにおける動脈硬化や心臓病に腸内細菌が関わっているという報告があり、話題をよんだのは2011年のことです。 「Nature」という有名な科学誌に、腸内細菌の代謝産物であるTMAO(trimethylamine N-oxide)の血液中の濃度が高い人は心臓病を発症しやすいという報告が載りました。研究グループによると、卵や牛乳、牛肉などに含まれるフォスファチジルコリンを腸内細菌が代謝するとTMAOという物質が産生されて動脈硬化を促進するそうです。 研究チームは本当にTMAOが動脈硬化に関わっているか検証するために、フォスファチジルコリンを含んだえさを食べさせた動脈硬化モデルマウスを使用し、血液中のTMAO濃度や血管の動脈硬化面積などを測定しました。すると、フォスファチジルコリンを含んだえさを食べたマウスは、普通のえさを食べたマウスに比べて血液中のTMAO濃度が高いだけでなく、血管の動脈硬化面積も広いことが明らかになりました。 また、抗生物質を投与して腸内細菌の数を減らすと動脈硬化病変が改善することもわかりました。
Gut flora metabolism of phosphatidylcholine promotes cardiovascular disease. を元に引用改変
2013年には違う研究グループが4007名の人を対象に、血液中のTMAO値と心血管関連疾患の発症率について検討しました。 3年間経過を追ったところ、血液中のTMAO値が高いと心筋梗塞、脳梗塞、死亡のリスクが2.54倍になることがわかりました。また、同研究チームは健康な人にフォスファチジルコリン負荷として、ゆで卵を2個食べさせて血液中のTMAO値が高くなることも確認しています。 興味深いのは、抗生物質を内服した後には血液中のTMAO値が低下し、抗生物質内服後しばらくしてから再度測定すると血液中のTMAO値が再上昇していることがわかった点です。 つまり、ヒトにおいても腸内細菌がTMAO産生に関わり、動脈硬化や心臓病を引き起こしている可能性が明らかになりました。

腸内細菌に着目した今後の治療展開とは

動脈硬化や心臓病に腸内細菌が関わっていることが明らかになり、治療に応用できるようにさまざまな研究が行われています。 例を挙げると、2012年に心筋梗塞モデルのラットを用いた研究で、善玉菌であるLactobacillus plantarum 299vを投与すると心筋梗塞病変が減り、心筋梗塞後の心機能も改善することが明らかになっています。また、2015年の米国心臓協会学術集会でアメリカの研究チームから発表された報告によると、心臓病の既往歴がある21名の男性に1日1回Lactobacillus plantarum 299v入りの乳酸菌飲料90mlを6週間にわたって飲んでもらったところ、動脈硬化に関連する血管の機能と炎症が改善したそうです。 これらの研究報告から、乳酸菌などの善玉菌が含まれたプロバイオティクスを摂取することによって動脈硬化や心臓病が改善する可能性があることがわかりました。 一方で、今回紹介した腸内細菌が動脈硬化を促進するTMAOの産生を増加させることを明らかにした2つの研究から以下のような治療方法も検討できます。 ①食事から摂取するフォスファチジルコリンの量を減らす。具体的には、卵や肉、牛乳などの摂取量を控える。 ②抗生物質で腸内細菌の量を減らす。 ③TMAO産生を減らす腸内細菌叢に変える。 ④TMAO産生に関わる腸内細菌のはたらきを抑える。 ①は具体的にどれくらい減らせば効果があるかわかっていません。 ②は、抗生物質投与による耐性菌の出現も懸念されますし、持続的な効果が期待できないという短所があります。 ③は、TMAO産生に関わっている腸内細菌の種類をまず同定する必要があります。 ④は実際に研究チームも着目しており、薬の開発が進められているようです。 体にとって有益な腸内細菌のはたらきは阻害せずに、動脈硬化や心臓病に関わる腸内細菌のはたらきだけをうまく抑えることが重要になるでしょう。今後の研究報告に期待したいです。

さいごに

動脈硬化や心臓病に、高血圧や糖尿病、肥満などが関わっていることは確かですが、今回紹介した研究によって腸内細菌も関連していることが明らかになりました。研究を行ったグループは、動脈硬化に関わる腸内細菌のはたらきを抑制する薬の開発にも着手しているようですし、今後の報告が楽しみです。

参考文献

1) Wang Z, Klipfell E, Bennett BJ et al. Gut flora metabolism of phosphatidylcholine promotes cardiovascular disease. Nature. 2011 Apr 7;472(7341):57-63. doi: 10.1038/nature09922.
(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21475195)

2) Tang WH, Wang Z, Levison BS et al. Intestinal microbial metabolism of phosphatidylcholine and cardiovascular risk. N Engl J Med. 2013 Apr 25;368(17):1575-84. doi: 10.1056/NEJMoa1109400.
(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23614584)

3) Lam V, Su J, Koprowski S et al. Intestinal microbiota determine severity of myocardial infarction in rats.FASEB J. 2012 Apr;26(4):1727-35. doi: 10.1096/fj.11-197921. Epub 2012 Jan 12.
(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22247331)

参照サイト
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/flash/aha2015/201511/544544.html

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