便秘でお悩みの方々で、便秘薬を使っていらっしゃるというかたも多いと思います。ウンログでは今回、ウンログユーザーを対象に「便秘薬」に関するアンケートを実施。その結果と便秘薬を使う際に注意したいことを、元プロバスケットボール選手であり、薬剤師の岡崎修司さんに解説いただきました。
【解説・執筆】岡崎修司(元プロバスケットボール選手/薬剤師)
そもそも便秘とは?
昨年まとめられた、「慢性便秘症診療ガイドライン2017」によると、本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態のこと。
排便の回数が少ないタイプと、量や回数は問題ないが便が快適に排出できず残便感があるタイプがあります。
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消化吸収の流れ
私たち人間の体というのは、食道→胃→小腸→大腸というように続いており、消化の最終段階を担うのが大腸です。
小腸では食事から摂った栄養素のほとんどを消化・吸収しており、食べたものは食道と胃を経て3~4時間ほどで小腸を通過し、大腸に送り込まれます。小腸から大腸に来た食物は、はじめはどろどろの状態ですが、大腸を通り抜ける間に水分が吸収されて固まり、固形の便として排泄されます。
大腸は、縮んでは緩みを繰り返す、ぜん動運動という動きで、便を押し出していきます。
便意を感じる仕組み
胃に食べ物が入った刺激で、大腸のぜん動運動が起こります。ぜん動運動によって便が直腸の方へ移動していきます。直腸に達すると大脳に指令が送られ、便意をもよおします。
ストレスにさらされると、自律神経がうまく働かないため正常なぜん動運動がおこらず、便が滞って便秘になったり、直腸が鈍感になり、こうした反応がうまく起こらなくなってしまいます。
女性の便秘
今回のアンケートにおいても、多くの女性が便秘に悩んでいることがわかりました。
日本人女性の半数以上が便秘になっているといわれます。なぜ男性に比べ、女性が便秘になりやすいのでしょうか。
下記のような原因が考えられます。
- ホルモンの作用
女性ホルモンのひとつ「黄体ホルモン」が体に水分や塩分をためこむように指示を出し、大腸の腸壁から便の水分が吸収されて便が硬くなります。また、「黄体ホルモン」は腸にも影響してぜん動運動を低下させることが知られています。特に「黄体ホルモン」が多く分泌される月経の前や妊娠初期には便秘になりやすいのです。 - ダイエット
食べる量を減らすダイエットは、そもそも排出するものも少なくなる上、食物繊維や水分、脂肪分を減らすことになるので、ぜん動運動などにも影響がおよび、便が硬く、排出されにくくなります。 - 身体的理由
男性に比べると女性は腹筋が弱く、大腸が便を送り出す力が弱いです。 - 精神的な理由
女性は忙しさや人前での恥ずかしさのためにトイレを我慢することも多く、ストレスも溜まりやすい。
薬剤の影響
薬剤の影響により、腸のぜん動運動などが抑制されて便秘になることがあります。
詳細は、ここでは省略しますが、いま服用している薬が便秘に影響しているかどうかは医師、薬剤師に相談してみてください。
便秘の種類~『機能性便秘』と『器質性便秘』
『機能性便秘』(①~④)
- 弛緩性便秘
結腸でぜん動運動が弱いと、便を先に送り出せなくなり、便秘が起こる。
(例:1日中座っていたり、運動をする時間があまりない人) - けいれん性便秘
ぜん動運動が強くなり過ぎて、腸がけいれんを起こし、便がスムーズに送られなくなる。
→このタイプでは刺激性の下剤は使わない。
(例:職場や家庭などの環境からストレスを感じることが多い人。常に緊張が抜けない人) - 直腸性便秘
排便のリズムが乱れていると、便が直腸にたどり着いても、便意が起こらない。
(例:朝、化粧や身支度に時間がかかり、トイレの時間を取れない人。学校・職場のトイレでは恥ずかしくて排便できず、便意を我慢してしまう人) - 食事性便秘
少食で出す便が少ない。繊維の少ない食事の人。
『器質性便秘』
腸の腫瘍や炎症などの異常によるもの。
→下剤は使わない
便秘のリスク
便秘が続いて便が腸内に長く停まると、体と心にさまざまな症状が出てきます。
- 腸内に悪玉菌が増える
- 骨盤内の血行が悪くなり、全身的に血行が悪くなる
- 自律神経の働きが乱れる
- 肌荒れ
- イライラ
- 肩こり、腰痛
- だるさ
- 食欲不振、お腹の張り
- 痔
- たまった便により腸に穴が開く
- 大腸がんのリスク
便秘が解消すると、こうした症状が連動してよくなる。
日本では便秘に対してあまり気にしない人が多いが、欧米では多くの人がそのリスクを感じ、より深刻にとらえていることが言われています。
治療の全体像
便秘は、がんや全身疾患との鑑別がまずは大切です。原因疾患がない場合に、まずは食生活や生活習慣の改善を行います。それでも改善がない場合には、下剤を用います。一般には作用が緩やかで副作用が少ない酸化マグネシウムから使用します。基本的には刺激性下剤は耐性や依存性が強いため、第一選択としては用いないことが多いです。
また、便秘の原因になりうる薬剤を服用している場合は、医師・薬剤師との相談の上で可能であれば中止・変更していきます。
便秘の改善には
まずは生活習慣の改善
便秘症状が続くために、便秘薬に頼ってしまうと、本来体に備わっている排便の力が次第に弱まり、さらに薬が必要になるという悪循環に陥る可能性もあります。特に刺激性の下剤などの薬は、長期で服用すると次第にお薬が効かなくなってしまうこと(耐性)があります。
そのため便秘の予防・改善には、お薬だけに頼るのではなく、生活の改善が大切です。規則正しい生活や定期的な運動を心がけ、朝の時間を取り、朝食をしっかり摂って腸の働きを活発にし、余裕をもって排便する習慣をつけましょう。
また、便秘症状といっても、様々な原因が考えられ、その症状や原因にあった対処が必要です。別のお薬の副作用が原因で便秘になっていたり、他の病気(大腸がんなど)が原因となり便秘を起こしている可能性もあります。医師に相談をしたり、自分に合う方法をいくつか選んで行い、便秘を改善しましょう。
食物繊維と乳酸菌で腸内環境を整える
食物繊維は腸内で水分を吸収し、便を柔らかくしてくれます。さらには、腸を刺激することでぜん動運動が起こりやすくなり、排便を促す働きがあります。毎日の食事で摂取することを意識してみましょう。
- 食物繊維を多く含む食品:いも類、海藻類、きのこ類、果物、根菜類、豆類、緑黄色野菜、玄米など
さらに、最近ではヨーグルトのCMなどでも一般的になってきましたが、腸内の善玉菌を増やして腸内環境を整えていきましょう。乳酸菌は、ヨーグルトの他に、味噌などにも含まれています。 - 乳酸菌を多く含む食品:ヨーグルト、味噌など
緑黄色野菜や豆類、ナッツ類は、ビタミンEやビタミンB群も多く含まれているため便秘症状には有効な食材です。
(ビタミンE…自律神経を整え、血行をよくする作用があり、腸の運動を調整してくれます。例→アボカド、アーモンド、ほうれん草など)
(ビタミンB群…副交感神経の働きを助けることで、腸のぜん動運動が高まることが知られています。例→ウナギ、カツオ、レバー、落花生など)
水分補給を意識する
朝起きて、水を1杯飲むことで、腸が刺激されて動きがよくなり、便意が起きやすいです。
水分が十分に摂れていないと、便が硬くなり、腸内で移動しにくくなります。1日に約2Lを目標に補給すると良いでしょう。
大ぜん動
大腸の運動に「ぜん動運動」がありますが、お通じが良い人の大腸では「大ぜん動」という別の動きも起きています。
最初にありましたように、ぜん動運動とは大腸がゆっくり伸びたり縮んだりして、ゆっくりと便を押し出すような動きのこと。起きている時も寝ている時も24時間ずっとこの運動はしています。お通じが良い人に起きている大ぜん動は、ぜん動運動よりも便を肛門に押し出す速さが200倍くらい速いと言われています。この大ぜん動は、1日に数回だけ起きる運動です。便秘の人はこの大ぜん動が起こっていない可能性があります。
大ぜん動を起こすには、生活習慣がとても重要だと言われています。まずは、深い睡眠です。大ぜん動は、脳がしっかり寝ていて副交感神経が優位な状態、つまり熟睡中のごく短い時間にだけ起こるからです。眠りが浅かったり、ストレスを抱えていて交感神経が優位だと、大ぜん動は期待できません。睡眠中に脳をしっかり休ませるためにも、寝る直前は物を食べるのを避けることも大切です。
さらに大ぜん動は、胃と小腸が空になった際に起こると言われています。胃は約3時間、小腸では約5時間かけて消化をします。そのため、1日のうちで、8時間何も食べない時間をつくるようにしましょう。
8時間が経過する前に何か食べてしまうと、胃や小腸がいつまで経っても空にならないので、大ぜん動は起きないと言われています。
アンケートの中で夕食と朝食の間が短い方や、夜食をとっている方も多くおられました。そういった生活週間も見直してみましょう。
おすすめは、夕食を睡眠の3時間前までに済ませることです。胃が食べ物を消化したあとのリラックスした状態で眠ることができます。そして、朝1杯の水を飲むことで刺激が伝わって腸の動きが活発になります。
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食事や運動、ストレス解消などの生活改善をまずは行いますが、それでも不調なとき、薬は補助的に利用していきましょう。たくさんある便秘薬の中から適切な薬を選ぶために、便秘薬が大腸でどう働くのか、その作用についても知っておきましょう。「機械性下剤」「刺激性下剤」「その他」に分けて解説していきます。
※ドラッグストアで購入できる薬はいくつかの薬が合わさったものも多いのではっきりと分類することは難しいですが、今回は簡易的に分類をしています。
「機械性下剤」~便に作用する薬~
便の水分量を増やし、柔らかくすることで動きをよくし、便自体のカサを大きくすることで腸を刺激するなど、便に作用していくお薬です。
この「機械性下剤」には①塩類下剤、②膨張性下剤、③糖類下剤などのタイプがあります。
- 塩類下剤:習慣性は少なく比較的効き目が穏やかな薬
- 酸化マグネシウム(マグラックス)、(マグミット)
- 「スラーリア便秘薬」ロート製薬 主成分:酸化マグネシウム
- 「3Aマグネシア」 フジックス 主成分:酸化マグネシウム
- 膨張性下剤:食物繊維と同様の働きをする薬
- カルメロース(パルコーゼ)
- 「新ウィズワン」 ゼリア新薬 主成分:ブランタゴ・オバタ種皮末(+刺激性下剤)
- 「コーラック ファイバー」 大正製薬 主成分:ブランタゴ・オバタ種皮末 (+刺激性下剤)
- 糖類下剤: 便の水分量を増やす薬
- D-ソルビトール
- ラクツロース(モニラック)
- 「マルツエキス」 和光堂 主成分:麦芽糖
比較的に習慣性はなく、最も広く服用されている薬になります。腸内において、便に含まれる水分の量を増やし、便を柔らかくする作用があります。
注意としては、高齢者や腎臓の障害のある方は、漫然服用で、高マグネシウム血症になることがあります。
処方箋薬
薬自体が水分を吸収し、腸内でカサを増やすことにより、腸の運動を活発にしていきます。習慣性が少なく、安全性が高いです。
処方箋薬
塩類下剤と同じように、便に含まれる水分の量を増やしカサを大きくし、便を柔らかくします。安全性が高く、習慣性は少ないです。長期投与でも、塩類下剤のように高マグネシウム血症になることはないので、安心して服用できる。
処方箋薬
「刺激性下剤」~腸に作用する薬~
大腸や小腸などに直接作用して腸の運動を高めます。腸の運動が低下しているような「弛緩性便秘」に向いていると言われています。
一方で、けいれん性便秘などのぜん動運動が活発になっている便秘には使用することはほとんどありません。
さらに、長期間の服用で耐性(次第に効き目がなくなる)が生じるので頓服(とんぷく)で服用するのが望ましいです。
効果発現まで約7~12時間かかるため、就寝前に服用することが多いです。
刺激性下剤には、①大腸刺激性下剤、②坐薬(ざやく)などのタイプがあります。
- 大腸刺激性下剤:処方薬、市販薬でもよく使われている
- センノシド(プルゼニド)
- ピコスルファートナトリウム水和物(ラキソベロン)
- センナ(アローゼン)
- センナエキス(アジャストAコーワ)
- 「コーラックハーブ」大正製薬 主成分:センノシド
- 「スルーラックS」エスエス製薬 主成分:センノシド
- 坐薬:即効性を期待
直腸で便が詰まっている場合や飲み薬で効果が見られないとき、または飲めないときなどに使用されます。主に直腸の肛門に近い部分に作用し、腸に刺激を与えることで、詰まった便を排便させます。
処方箋薬
- 炭酸水素ナトリウム、無水リン酸二水素ナトリウム(新レシカルボン坐剤)
- ビサコジル(テレミンソフト坐薬)
- 「ウィズワン坐剤」ゼリア新薬工業 主成分:炭酸水素ナトリウム、無水リン酸二水素ナトリウム
- 「ベンツナール坐薬」大木製薬 主成分:ビサコジル
大腸に主に作用して腸の運動を高め、排便を促します。機械性下剤である酸化マグネシウムなどで効果が出なかった方や、大腸の働きが弱まった高齢の方が飲まれることが多いです。
処方箋薬
その他
- 腸液分泌促進薬
2012年に販売になった比較的新しいお薬になります。このお薬は小腸に作用して、腸管内への水分の分泌を増やします。この水分によって便を柔らかく、カサを大きくし、排便が起きやすくなります。小腸に作用するため下痢になりにくいことが知られています。
処方箋薬
- ルビプロストン(アミティーザ)
- なし
- 直腸刺激性下剤(浣腸):即効性あり
直腸で便が固まっている場合で、出ないときなどに使用します。即効性があり、服用後すぐに効果が見られることが多いです。
処方箋薬
- ケンエーG浣腸液など
- 「コトブキ浣腸」 ムネ製薬 主成分:グリセリン
- 「ケンエー浣腸」 建栄製薬 主成分:グリセリン
- 「イチジク浣腸」 イチジク製薬 主成分:グリセリン
- 整腸剤:腸内環境を整える
腸内細菌のバランスを整えることによって、便秘や下痢などの症状を予防・改善させます。即効性はなく、日頃から腸内環境を整えることで効果があります。健康な人の腸内には約100兆個もの腸内細菌がバランスよく存在し、「腸内フローラ(細菌叢)」と呼ばれています。腸内細菌は、ビフィズス菌や乳酸菌のような良い働きをする「善玉菌」と有害な「悪玉菌」とに大きく分けられます。ストレスや加齢、脂肪の多い食事のとり過ぎなどで便秘な人の腸内は、ウェルシュ菌などの悪玉菌が優勢になっています。乳酸菌をとることにより、腸内が酸性に傾き、悪玉菌の増殖が抑えられて、腸内環境のバランスがよくなります。
処方箋薬
- ビオフェルミン
- ビオスリー
- ミヤBM
- 「新ビオフェルミンS錠」 ビオフェルミン製薬 主成分:乳酸菌
- 「ザ:ガードコーワ整腸錠」興和 主成分:ラクトミン、ビフィズス菌など
- 「パンラクミン錠」第一三共ヘルスケア 主成分:乳酸菌など
医療機関での受診をおすすめする場合
以下のような症状がみられたら、医師の診断を受けましょう。
- 突然便秘をするようになった
- 便に血や粘液が混ざっている
- 便が細くなった
- 激しい腹痛や嘔吐、発熱がある
- おなかにしこりがある
- 重度な便秘で、何をやっても改善しない
など
症状が続いている、しばらく市販薬を服用していても症状が改善されない場合は、医療機関を受診して、適切な診断と治療を受けましょう。
まとめ
便秘の改善にはお薬だけではなく、食事や運動などを含めた生活習慣の改善を行うことがまずは第一です。補助的に薬を使うようにしていきましょう。
アンケートの結果から、便秘症状で病院に行ったことがある方は30%程度しかおられませんでしたが、約80%の方が便秘薬を服用したことがあるとのことでした。これは、多くの方がドラッグストアなどで市販薬を購入して服用しているという実態があると考えられます。
そのため、自らが便秘について知り、良い生活習慣を心がける。補助的に薬を使う際には、正しい知識を身につけて選択していくことや医師、薬剤師に相談することが非常に大切です。
それでも便秘が続く場合は、一度医師に相談して、原因をきちんと確かめた方が安心。症状が改善しない場合は一度受診するようにしましょう。
元プロアスリート/薬剤師 岡崎修司
元プロバスケットボール選手
広島ドラゴンフライズアンバサダー
広島ドラゴンフライズユースコーチ
薬剤師
スポーツファーマシスト
広島都市学園大学特任講師
グリーンリボン推進協会
ハンザクラスワールド世界大会広報大使
2017年のB.LEAGUEシーズン中に薬剤師国家資格を取得。文武両道を体現するアスリートとして注目されている。