野生のニホンザルはどのような腸内細菌をもっているか? 京都大学らの研究チームが解明

2018-08-27
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京都大学の早川卓志・霊長類研究所特定助教授らの研究チームが、屋久島に生息する野生のニホンザルの糞便のDNA分析を行い、彼らがどのような腸内細菌を持っているのかを解き明かしました。また、霊長類研究所で飼育されているニホンザルの糞便と比較することで、その腸内細菌分布の違いも明らかになりました。

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動物の消化管には多種多数の腸内細菌が生息しており、その分布状況が動物の健康状態に大きな影響を与えていることが、近年の研究で明らかになってきています。

この分布状況は、さまざまな菌が咲き乱れる花畑になぞらえて「腸内フローラ」と呼ばれていますが、腸内細菌は食物の消化にかかわるため、食べたものの種類によって腸内フローラは変化します。
そのため、肉食動物、雑食動物、草食動物それぞれに異なった腸内フローラを有しています。

従来の研究では、糞便に含まれている菌をシャーレで培養することで腸内細菌について調べていたのですが、もともと腸内でしか生息できない菌が多いため、解明できるのはほんの一握りでした。
そこで近年登場したのが、次世代シークエンサーというDNA、つまり菌の遺伝子を網羅的に解析できる機器です。
現在は、この機器によって菌の遺伝子をベースとした腸内フローラ(マイクロバイオーム※)を調べるのが主流となっており、これまでわからなかった腸内細菌の種類やその働きが続々と明らかになってきています。

ヒトがどのようなマイクロバイオームをもって進化してきたかを知るために、今回の研究ではヒトに最も近い動物、つまり霊長類の仲間の腸内フローラを調べる調査を実施することになったといいます。
日本という四季の変化豊かな土地に住み、日本人と同じ山菜や果物も摂取しているニホンザルの腸内フローラを解き明かすことは、日本人の腸内環境のルーツを知る道しるべとなるからです。

※ 遺伝子をベースにして調べる細菌叢の概念のこと

屋久島のニホンザル(写真提供:早川卓志氏)

野生のニホンザルは、飼育下のニホンザルよりも腸内フローラの多様性が高い

今回の研究調査は京都大学の早川卓志・霊長類研究所特定助教、半谷吾郎・同准教授、澤田晶子・ 日本学術振興会特別研究員(中部大学創発学術院)、阿形清和・学習院大学教授らのチームによって、京都大学が持つ屋久島のフィールドステーション(調査基地)を拠点として実施されました。

屋久島の西部林道の野生のニホンザルは、同大のグループらによるの長期調査によって人に慣なれており、行動を直接観察することができるのだそうです。
一頭一頭の顔を見分けて個体識別をし、自由に森の中で活動するニホンザルを追跡して、糞便を収集しました。
採取した糞便はフィールドステーションを経て、京都大学へ運搬され、次世代シークエンサーによりDNA解析が行われました。

同時に、同大学の霊長類研究所で飼育されているニホンザルからも糞便を採取し、両者を比較検討したところ、以下のことが明らかになったそうです。

①野生のニホンザルの方が、飼育下にあるニホンザルよりも腸内フローラの多様性が高い(より多数の菌種がバランスよく生息している)。

②ニホンザルの腸内フローラにはプレボデラ属(Prevotella)という細菌が多かった。

③糞便を保冷箱で運搬・保存したものと、DNAを安定した状態で保存可能な液体につけて常温で運搬・保存したものの両方で、含まれている細菌の種類を安定的に調べることができた。ただし、細菌のバランスには少なからず影響が出た。

今調査で、速やかに糞便を採取し、状態を変えずに持ち帰る手法を確立

今回の調査で最もポイントとなったのは、森林で暮らす野生のニホンザルの糞便を速やかに収集し、そのままの状態で実験室まで運搬する手法を確立することだったといいます。
野外で排出された糞便は外気に触れるとすぐにお腹の中とは異なる菌が増殖し、さらにはもともとの腸内細菌のDNAが簡単に分解してしまうからです。

そこで、排泄を確認したらすぐに採取することを心がけ、糞便を冷やして菌の活動を抑制した状態で運べる保冷箱を使用しました。
それをフィールドステーションに持ち帰った後、ただちに凍結してサンプルをつくり、京都の研修室へと送ったそうです。

また、ニホンザル以外の霊長類の主要な生息地である海外の熱帯雨林のような保冷箱のない状態も想定し、2種類の保存液を用意。
採取した糞便をこれに浸けて、常温でフィールドステーションに持ち帰るという方法も試しました。

こうして得られた研究結果をまとめた論文は、2018年6月25日に国際学術誌『Primates』のオンライン版(https://rdcu.be/2KC6 )に掲載され、誰でも見ることができます(英語)。

今回の調査で確立されたサンプル採取の手法は、今後の霊長類を含むさまざまな野生動物を対象としたフィールドワークへの活用が期待されています。

また、他の多くの霊長類が熱帯で暮らしているのに対し、ニホンザルが暮らしている温帯の四季の変化豊かな環境がどのように腸内細菌に影響を及ぼしているのか、そして同じ食べ物を口にしている日本人の腸内環境とどんな違いがあるのか、さらなる調査研究が期待されています。

参考文献

京都大学 研究・産官学連携 研究成果

http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2018/180625_1.html

 

http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2018/documents/180625_1/01.pdf

(最終アクセス2018年8月22日)

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