美しい肌は女性の憧れで、多くの化粧品や美容グッズが販売されています。
美しい肌を保つには皮膚の新陳代謝をよくすることが大事ですが、化粧品だけでは実現が難しいといわれています。毎日の食事や運動、睡眠などの生活習慣が健康な肌を維持するために重要な要素となりますし、ストレスも少ない方がよいです。
また、腸内環境も健康な肌の維持のために重要であることが今までの研究から明らかになってきています。今回は、肌と腸内細菌の関係について報告された研究を紹介します。
腸内環境の乱れは肌荒れの原因になる
腸内環境が乱れていると、さまざまな皮膚のトラブルを起こすことが知られています。イタリアからの報告では、肌に赤みのある「しゅさ」とよばれる皮膚の状態の患者113名を調べたところ小腸で腸内細菌が異常に増えていたことがわかっています。
また、大腸に炎症を起こす潰瘍性大腸炎やクローン病の患者では腸内細菌のバランスが乱れていることが知られていますが、同時に皮膚炎を合併する頻度が高いことがわかっています。以前にウントピでも記載しているように、アトピー性皮膚炎にも腸内細菌が関連していると考えられています。腸内フローラ最先端:アトピー性皮膚炎の予防には皮膚と腸内細菌がカギになる
しゅさや大腸炎、アトピー性皮膚炎を経験したことがない人でも、ニキビで悩んだことのある方は比較的多いのではないでしょうか。実は、ニキビにも腸内環境の乱れが関係しているといわれています。
ニキビの患者114名を対象にした研究では、54%にあたる61名において腸内環境が乱れていたそうです。
また、ニキビの患者では便秘が多いことも知られています。便秘は、腸内環境の乱れや善玉菌の減少が起きている証拠と考えられています。
このように、さまざまな皮膚のトラブルと腸内環境は関連していることがわかっていますが、どのようなメカニズムで腸から皮膚へ影響を与えるのでしょうか。
いろいろな説がありますが、脂質が多く、野菜(食物繊維)の少ない食事などによって腸内細菌のバランスが乱れ、腸の粘膜から炎症に関わる物質が全身へと運ばれ皮膚の状態を悪くするのではないかといわれています。
肌荒れや美肌の維持にプロバイオティクスが有効である可能性
皮膚にトラブルが出て皮膚科を受診すると内服薬や塗り薬が処方されます。必要があれば全身の検査や血液検査を行うこともあります。しかし、医師の指示通りに治療をしていても残念ながらなかなか治らないこともあります。そのような時に、今までの研究結果をふまえて腸内環境に着目してみるとよいかもしれません。
実際に、肌に赤みの出る「しゅさ」の患者に対し腸内細菌の異常増殖を抑えるために抗菌薬を投与したところ、症状の改善が見られたという報告があります。また、ニキビで悩む患者に対して乳酸菌を含む飲み物をプロバイオティクスとして12週間摂取してもらったところ症状が改善したことがわかっています。さらに善玉菌を増やすはたらきのあるラクトフェリンとよばれるタンパク質を付加した飲み物を摂取すると、ニキビによる炎症をより抑えられることが明らかになっています。
では、健康な人において腸内環境を整えることは肌にどのような影響を与えるのでしょうか。
日本の研究チームの報告によると、善玉菌であるビフィズス菌を含む飲料を健康な女性が4週間継続して飲んだところ、皮膚の水分量が維持されたことが明らかになっています。つまり、腸内環境を整えることは便秘や肌荒れのある方だけでなく、健康な方においても皮膚の状態をよくする可能性があることがわかりました。
現時点では、薬よりもプロバイオティクスがよい、とは言い切れません。しかし、バランスのよい食事や腸内環境を整えるプロバイオティクスは肌の状態を改善することが期待できます。
腸内環境を良くすることは皮膚トラブルだけでなく、肥満や心臓病、がんなど多くの病気の発症を予防、または改善する可能性があるといわれています。プロバイオティクスなどが治療方法の1つとして確立されるかどうかは、今後の研究に期待したいところです。
さいごに
皮膚トラブルにも腸内環境が影響していることがわかりました。食物繊維の多い食事、プロバイオティクスなどを日頃から取り入れることは健康な肌を維持するために有効な可能性がありそうです。
高い化粧品や美容グッズを試してみる前に、腸内環境を整える努力をした方が経済的かもしれません。
参考文献
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医者 大塚真紀
腎臓、透析、内科の専門医。医学博士。
現在は夫の留学についてアメリカに在住。アメリカでは専業主婦をしながら、医療関連の記事執筆を行ったり、子供がんセンターでボランティアをして過ごしている。
アメリカにいても医師という職業を生かし、執筆を通して患者さんやその家族のために有益な情報を提供できたらと願っている。