災害時のトイレはどうしたら? 専門家が教える今すぐできること

災害時のトイレはどうしたら? 専門家が教える今すぐできること

気持ちよい排便にはトイレ環境が大切ですが、思うようにいかないのが災害時のトイレ。いつも通りトイレを流したら、自宅だけではなく階下の部屋までも汚物まみれにしてしまうこともあります。災害時トイレの事前準備と災害発生時の対応について、アウトドア防災ガイドのあんどうりすさんに話をうかがいしました。

災害時のトイレは何が困る?

災害時のトイレと言っても、災害によって対応の仕方が違います。停電・断水時の対応と、大きな地震が起こったときの対応の違いを知っておきましょう。

大きな地震のない、停電・断水時の場合

断水時
断水するとトイレの水は流れなくなります。このとき、トイレ(便器)にバケツ1杯分くらいの水をそそぐことで流すことができます。
(参考:【LIXIL】断水時にトイレを流す方法 (トイレ断水・停電時の対応)

停電時
断水していなくても、リモコン洗浄のトイレは、停電すると水が流せません。こういったトイレは、機種によっては手動レバーが隠されています。あらかじめ説明書やメーカーのホームページを確認しておくとよいでしょう。

断水のときと同様に、水をそそいで流すこともできます。2018年の北海道地震の際、大きくゆれなかったものの停電した地域がありました。これらの地域では水をそそいで流すなどの対応が有効でした。

大きな地震の後の場合

トイレで注意すべきは、震度5弱以上の地震のときです。マンションの上の階で流した汚物が下の階にもれた事件は過去に何件も起きています。上下水道の配管がこわれている可能性が高いので、無事がわかるまでは、災害用のトイレを使うとよいでしょう。

また、震災発生後にトイレを使って起こした被害・損害には地震保険が適用されません。 保険の対象外になるからです。

この話を聞いて「うちは一軒家だから大丈夫」と思った方も気をつけてください。一軒家でも地中の配管がこわれていて、汚物が流れなくなってしまうケースがあります

どうして災害発生後にトイレを使ってはダメなのか? どんなこと(汚物まみれ)が起きてしまうのかについては、国土交通省が公開している漫画と動画でチェックしてみてください。

(参考:漫画「災害時のトイレ、どうする?」(PDF形式:9,480KB)
(参考:動画「災害時のトイレ、どうする?」)

災害時にトイレ環境を整えるには

では、具体的にどうしたらいいのでしょう? 震度5弱以上の地震が起きたときのトイレについて解説します。

まず災害用トイレを設置

下水道の配管の安全が確認できるまでは、トイレを流してはいけません。まず、災害用トイレを設置しましょう。 災害用トイレは、材料があれば自前で作ることもできますが、震災直後は余震の不安もあります。開封したらすぐに使える市販の災害用トイレを準備しておくと安心です。

よく聞かれるのが、「どれくらいの量を用意すればいいのか」ということ。避難所などに仮設トイレが届くまでに平均して4日と言われています(トイレ研究所調べ)。最低でも4日分は用意しておきたいですね。「1人1日5回。毎回捨てる」なら、3人家族で60枚、5人家族で100枚必要です。

毎回捨てるのは衛生的ですが、たくさんの数が必要になるので、「大人と子どもで1回ずつ使ったら捨てる」「少なくとも最初の◯日分だけでもそろえておこう」など家族で話し合っておけるとよいと思います。大と小で分けると匂いをコントロールしやすくなります。

東日本大震災のときは、震度5だった千葉県浦安市では液状化もあり、震災後1カ月近く災害用トイレを使っていた地域もありました。大規模災害に備えるのであれば、1カ月分はあると安心です。

災害用トイレがない場合は「作る」

災害用トイレを十分にストックできるとよいですが、そうはいっても難しいこともあります。作り方も知っておきましょう。災害用トイレを作るポイントは「防水」と「吸水」の組み合わせです。防水の袋に吸水素材を入れ、用を足したら、縛って捨てる。同じ原理で赤ちゃんのオムツも作れます。

一番下のビニールは固定用(トイレの水が他の2枚につかないように)。
1枚目を便器にかぶせたら、養生テープで便器と固定し、そのままにしておくのがおすすめです。

使用後の災害用トイレは保管

使用した災害用トイレは、家の中で保管することになります。好きな場所で構いませんが、フタもトビラも閉められるお風呂を利用される方が多いのではないかと思います。消臭にすぐれた袋もあり、オススメです。

避難所のトイレで心がけておきたいこと

「災害が起きたら避難所に行こう」という方も多いと思います。しかし、首都圏(特に東京都内)は避難所が約500万人分足りていません。避難所に受け入れる余裕がない可能性があることを知っておいてください。それを前提に避難所でのトイレについて知っておきましょう。

避難所のトイレも使えない

避難所には、地域の学校や公民館なとが指定されますが、避難所のトイレも自宅と同じです。普段通りに使うことができません。災害用トイレを使うことになります。

震災関連死につながるケースがある

気をつけたいのが、避難所での災害関連死です。

東日本大震災や熊本地震でも報告されていますが、 「トイレが汚いと使いたくなくなる」→「トイレに行くたくないから飲料を我慢する」→「飲料をがまんし、血栓などが出やすくなる」→「震災関連死にいたる」 といったことが考えられます。

震災関連死を防ぐためにも、みんなが使いやすいように、トイレをキレイに保つことが大切。特にご高齢の方は、水を意識的に飲むようにしてください。

地域によってはマンホールトイレを活用

地域やコミュニティによってはマンホールをそのままトイレにする設備があります。

(マンホールトイレの写真。国土交通省のサイトから引用)

ただ、液状化でマンホール自体が地面から浮き上がって全く使えなかった地域もありました。マンホールトイレは安心ですが、絶対ではありません。

安心安全なトイレのためにできること

悲しいことに避難所での性被害の報告もあります。安心・安全なトイレの基準があることを知っておきましょう。

(国土交通省 : マンホールトイレ整備・運用のためのガイドラインから引用)
(国土交通省 : マンホールトイレ整備・運用のためのガイドラインから引用)

ただ、それでも避難所の中にはなかなかこれを満たすことができないところもあります。「自衛」という意味でも、以下をご自身でも心がけておきましょう。

  • 両手が使えるようにヘッドライトも持っておく
  • 絶対1人では行動しない
  • 防犯ブザーを持って行動する

災害時のために用意したいアイテム

いろいろと説明しましたが、結局のところ、事前の準備で災害時のトイレ環境は大きく違います。災害時のトイレ環境を整えるために、そろえておきたいアイテムを紹介します。


◯ 災害用トイレ(☆☆☆)
一言で災害用トイレと言っても種類がいくつかあります。

  • トイレ(便器)に広げて使えるもの
  • コップ状になっているもの

自然災害はいつ起こるかわかりません。家族で話し合ってそれぞれ必要な数をそろえておきましょう。自宅にストックしておくのはもちろん、普段から自分用に最低3つは持っておきましょう。

ちなみに、女性は1人1日5回くらいトイレに行くと言われています。4時間以内に必ずトイレに行きたくなるはずです。4時間飲み物をがまんできるし、食べ物もがまんできます。でも、4時間後のトイレだけは絶対にがまんできません。だから、これだけは持っていてください。

最近は、100円ショップでも災害用トイレは売ってます。持っていなければ、すぐに買ってください。車が渋滞でトイレに行けないときや子どもが急に気分が悪くなったときの汚物入れにも使えます。

◯ビニール袋(☆☆☆)
災害時、ビニールはとても活躍します。防災マニュアルに、そろえるべきものとしていろいろ書いてありますが、大きく分類するとその多くがビニール。トイレ、ビニール手袋、ラップ、飲料水をためる袋としても使うことができます。ビニールは大量に必要になりますが、いざ調達しようとするとなかなか難しい。

そこでオススメなのが、ペット用のうんち入れなどをコンパクトにまとめている商品。50枚くらいが1ロールとしてコンパクトにまとまっています。このなかに生理用ナプキンなど吸水素材をいれれば、簡易のトイレにもできます。ただ、そのままではトイレとして使いにくいので、紙コップの折り方をおぼえておいて、検尿コップのようにして、使うのがおすすめです。子どもがいるご家庭でしたら、お着替え入れとしてなど、日常的にも使えますよ。

◯ヘッドライト(☆☆☆)
ヘッドライトはトイレの必需品です。大きな地震の後は、停電していますので、夜は真っ暗な中で用を足す必要があります。特に女性は両手が使えないといけませんので、手に持つタイプの懐中電灯では困ります。

◯レインウエア(☆☆☆)
特に避難所でトイレを利用する際、雨の中でトイレに行かないといけないかもしれません。レインウエアは雨に限らず保温でも活躍します。講演ではよく「普段から寒くない格好をしましょう」と言っていますが、普段から寒いと感じる格好だと、災害時により寒く感じるからです。「寒いから外にでるの嫌だ」とトイレに行けなくなったら、ここでも災害関連死のリスクが高まります。

◯消臭袋・消臭剤(☆)
使用済みの災害トイレがたまると臭いが強くなります。お風呂など生活空間においておく必要があることを考えると、少しでもそれを緩和するための消臭袋などは余裕があるなら持っておくとよいでしょう。

まとめ

過去の災害時では「がまん強い」と世界で評された日本ですが、トイレはがまんして解決できる問題ではありません。これまでご紹介してきたように、事前の準備でトイレの環境は大きく変わります。災害に備えて、ぜひご家族と話し合うなど、事前の準備を進めてみてください。

参考文献

※1)国土交通省配管の動画について

国土交通省 下水道 マンホールトイレについて

動画「災害時のトイレ、どうする?」

http://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/mizukokudo_sewerage_tk_000411.html

※2)スフィア基準について

  • ・NHK NEWS WEB(2018年5月1日):避難所のトイレは男性の3倍必要〜命を守る「スフィア基準」

https://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2018_0501.html

  • ・スフィア基準(スフィア・ハンドブック)のホームページ

https://jqan.info/documents/

  • ・スフィア・プロジェクト 人道憲章と人道対応に関する最低基準

https://www.refugee.or.jp/sphere/The_Sphere_Project_Handbook_2011_J.pdf

※3)マンホールトイレについて

  • ・国土交通省 水管理・国土保全局 下水道部:マンホールトイレ整備・運用のためのガイドライン−2018年版−

http://www.mlit.go.jp/common/001229971.pdf

※4)内閣府の男女共同参画に基づいた防災について

  • ・内閣府男女共同参画局:男女共同参画の視点から防災・復興の取組指針

http://www.gender.go.jp/policy/saigai/shishin/index.html

 

 

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