肥満や糖尿病、心臓病などの病気に腸内細菌が関わっていることが、今までの報告で明らかになっています。
腸内細菌は脳の神経の発達や感情に影響している
スウェーデンの研究チームは、マウスを使用した研究で腸内細菌が脳の神経の発達に関与していることを2011年2月に「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌に発表しました。
今回の研究では、腸内細菌が一切いない幼いマウスに通常レベルの腸内細菌を移植したところ、脳神経の成熟を認めたことを明らかにしました。つまり、腸内細菌が脳の正常な発達に影響を与えている可能性があるということです。
その後、アイルランドの研究チームによって同誌に発表された報告によると乳酸菌の1種であるラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)が、マウスのストレス反応や抑うつ反応、不安反応を減少させることがわかっています。研究チームは、ラクトバチルス・ラムノサスを含むエサと含まないエサをそれぞれのグループにわけたマウスに食べさせて、行動の変化やストレスで分泌されるホルモンの血液中の濃度を解析しました。その結果、乳酸菌を与えられていたマウスは、不安を感じにくいということがわかりました。
では、乳酸菌はヒトの不安な気持ちに対しても有効なのでしょうか。次に、乳酸菌などの善玉菌を含むサプリメントをヒトに投与した効果を検証した論文を紹介します。
善玉菌を含んだサプリメントを飲むと悲しい気持ちになりづらくなる
オランダの研究チームは善玉菌を含むサプリメントを健康なヒトに投与すると悲しい気持ちへの反応が和らぐことを2015年8月に「Brain, Behavior, and Immunity」誌に発表しました。
うつ病などでは悲しい出来事があった時に過剰に反応して、落ち込んでしまうことが知られています。今回の研究では、善玉菌である乳酸菌とビフィズス菌を複数含むサプリメントを4週間飲むグループと何も含まないサプリメントを4週間飲むグループにわけて、悲しい気持ちへの反応を解析しました。各グループは20人ずつで、うつ病などの精神疾患がない健康な方を対象としました。
善玉菌を含むサプリメントを飲んでいたグループの人は、悲しい気持ちに対してマイナスの思考をしない傾向になることがわかりました。ちなみに今回研究で用いられたビフィズス菌は、ビフィドバクテリウム・ビフィズムW23 (Bifidobacterium bifidum W23)、 ビフィドバクテリウム・ラクティスW52 (Bifidobacterium lactis W52)で、
乳酸菌はラクトバチルス・アシドフィルスW37 (Lactobacillus acidophilus W37) 、ラクトバチルス・ブレビスW63 (Lactobacillus brevis W63)、ラクトバチルス・カセイW56 (Lactobacillus casei W56), ラクトバチルス・サリバリウスW24(Lactobacillus salivarius W24)、ラクトコーカス・ラクティスW19とW58 (Lactococcus lactis W19, W58)でした。
今回は健康な方を対象としていますが、うつ病など精神疾患の患者さんに善玉菌を含むサプリメントや食べ物が有効であるかどうか大規模な研究が行われることが期待されます。
さいごに
今回は、腸内細菌が脳の神経の発達や感情にはたらきかけていることを示唆する論文を3つ紹介しました。実際に、マウスやヒトに特定の細菌を投与して不安な気持ちを抑制する効果を証明できたことはとても興味深く、今後治療の1つとして応用できるか期待されます。実際に腸内細菌を使用した研究では、どちらも乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌を投与していました。言い換えると、善玉菌は私たちが悲しい気持ちになるのを防いでくれるのかもしれないということになります。
身体疾患だけでなく、精神疾患にも影響するといわれている腸内フローラに今後も注目していきましょう。
参考文献
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21282636)
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25862297)
医者 大塚真紀
腎臓、透析、内科の専門医。医学博士。
現在は夫の留学についてアメリカに在住。アメリカでは専業主婦をしながら、医療関連の記事執筆を行ったり、子供がんセンターでボランティアをして過ごしている。
アメリカにいても医師という職業を生かし、執筆を通して患者さんやその家族のために有益な情報を提供できたらと願っている。