健康な人の便を移植して難病の大腸炎も治る!?話題の便移植療法とは

便移植療法とよばれる治療法をご存知でしょうか。
その名の通り、健康な人の糞便を大腸の病気がある人の腸に移植する治療法です。今、医療の現場で新たな治療法として期待されている便移植療法について最新の研究結果も入れながらわかりやすくまとめます。

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そもそも便移植療法が注目されたきっかけとは

健康な人の糞便を大腸に病気をもつ人に移植すると治療効果があることは以前から知られていました。しかし、治療効果を実証する十分な医学的証拠がなかったために標準的治療として認められてきませんでした。 そのような状況の中、2013年に世界的に権威があるとされる医学雑誌の1つの「The New England Journal of Medicine」誌に、何度も繰り返し再発するディフィシル菌による大腸炎に対し、便移植療法が有効であったという結果が掲載され、一気に注目が集まりました。ディフィシル菌は、健康な人の腸内に存在する腸内細菌です。 しかし、抗菌薬の使用などによって腸内細菌のバランスが崩れるとディフィシル菌が異常増殖するとともに毒素を産生します。ディフィシル菌関連下痢症は、抗菌薬関連下痢症または偽膜(ぎまく)性大腸炎とよばれます。ディフィシル菌が異常増殖すると、大腸の壁に白い円形の膜のようなものがたくさんできるため偽膜性大腸炎という名前がつけられています。 症状は発熱や頻回の下痢、血液の混じった下痢などですが、重症化すると命に関わることもある病気です。また、治療にはディフィシル菌に効く抗菌薬を使用しますが、繰り返し再発する人に対しては有効な抗菌薬がなくなってしまう場合もあります。 つまり、今回の研究結果により抗菌薬などの治療に反応しない難治性のディフィシル菌関連下痢症に対し健康な人の便を移植するという画期的な治療法が提示されて注目を集めたのです。

便移植療法の方法と現状

便移植療法の方法ですが、まず健康な人の便を採取し生理食塩水と混ぜます。生理食塩水と混ぜた便をフィルターでろ過し、繊維などを取り除きます。ろ過した液体を大腸内視鏡を使用して大腸に注入したり、鼻から挿入する管を使用して注入することがあります。ろ過したばかりのものを注入する場合と一度凍結して保存しておいたものを後日とかしてから注入する場合があります。便移植療法だけでなく、抗菌薬や腸洗浄と組み合わせることもあります。 日本では便移植療法に対してまだ保険が適用されませんが、いくつかの病院で臨床試験が行われています。効果が実証されれば保険が適用される可能性があります。 便移植療法の良い点は、健康な人の便であれば治療に使えるので基本的に誰でも提供できることです。ただし、肥満の人の便を移植したら病気は治ったものの肥満になってしまった例が報告されているため、肥満の人の便も移植に適していないとされています(「肥満の原因はデブ菌のせい!?でも食事の仕方も大切」を参照)。 また、当たり前ですが腎移植や心臓移植と違い、便移植療法においては拒絶反応が起きないため、免疫抑制剤などを内服する必要がありません。腸内細菌のバランスを整えるためには、食物繊維の多い食事やプロバイオティクスなどが推奨されていますが、約1000兆個ともいわれる腸内細菌に影響を与えるには少し時間がかかるかもしれません。便移植療法は、一度に健康な人の腸内細菌を大量に移植できるので病気の人の腸内細菌にも良い影響を起こすのではないかと考えられています。 腸内細菌は、便秘や過敏性腸症候群、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)などの大腸に関連する病気だけでなく、肥満や糖尿病、自閉症、パーキンソン病などの大腸以外の病気にも関連するといわれて注目されています。そのため、便移植療法もディフィシル菌関連下痢症だけでなく、その他の多くの病気に試されています。 次に紹介する研究は、潰瘍性大腸炎という日本でも難病に指定されている病気に対して便移植療法を行った結果を報告しています。

難病である潰瘍性大腸炎に対して便移植療法が有効だった

潰瘍性大腸炎とは、原因不明の難病ですがなんらかのきっかけで自分の大腸粘膜を攻撃する抗体ができ、大腸が炎症でただれてしまう病気です。自己免疫の異常による病気なので、免疫抑制剤やステロイドなどで免疫力を抑える治療を行いますが、コントロールが難しい場合には大腸を切除することもあります。 カナダの研究チームは、潰瘍性大腸炎の患者に対し便移植療法を行ったところ改善する可能性があることを2015年7月に「Gastroenterology」誌に発表しました。 潰瘍性大腸炎の患者をランダムに2つのグループに分け、1つのグループには便移植療法(38名)、もう1つのグループには水によるニセ移植療法(37名)を行い、治療効果を評価しました。移植した便は、健康な人から匿名で提供を受けたもので、週に1回50mlを6週間にわたり浣腸しました。ニセ移植療法のグループには、健康な人の便が含まれていない水を週に1回50mlを同じように6週間に渡り浣腸しました。 便移植療法または水浣腸によるニセ移植療法が終了した1週間後に、潰瘍性大腸炎の回復の程度を評価しました。便移植療法のグループでは24%が回復、ニセ移植療法のグループでは5%が回復したという結果になり、治療効果に14%の差があることが明らかになりました。また、健康な人の便を移植されたグループの方が腸内細菌の多様性を認めたこともわかりました。腸内細菌は多様性がある方が健康とされています。 今回の研究結果から、便移植療法が難病である潰瘍性大腸炎にも有効なことが明らかになりました。

さいごに

今回は、注目を集めている便移植療法の方法や最新の研究結果を紹介しました。今回紹介した研究では難病である潰瘍性大腸炎を対象にしていますが、他にも便秘や過敏性腸症候群、メタボリック症候群などに対して便移植療法を行った報告もあります。 便移植療法は、今後さまざまな病気に対して効果が期待される治療法といえます。

参考文献

http://www.eiken.co.jp/modern_media/backnumber/pdf/MM1010_01.pdf
1) van Nood E; Vrieze A; Nieuwdorp M et al. Duodenal infusion of donor feces for recurrent Clostridium difficile. N. Engl J Med. 2013 Jan 31;368(5):407-15. doi: 10.1056/NEJMoa1205037. Epub 2013 Jan 16.
(http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1205037)

2) Moayyedi P ;Surette MG ; Kim PT et al. Fecal Microbiota Transplantation Induces Remission in Patients With Active Ulcerative Colitis in a Randomized Controlled Trial. Gastroenterology. 2015 Jul;149(1):102-109.e6. doi: 10.1053/j.gastro.2015.04.001. Epub 2015 Apr 7.
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25857665)

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