発酵食品や大豆製品は体によい、と聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。日頃からすでに食事に取り入れている方もいるかもしれません。今回は、発酵食品や大豆食品と腸内細菌の関係に関する論文をわかりやすく説明します。
酵母からオリゴ糖を作るためには腸内細菌が欠かせない
酵母は7000年以上前から人間が利用してきたもので、現在も世界各国で多くの食品に活用されています。日本食では、ぬか漬けなどの漬物、納豆、かつおぶし、塩から、味噌や醤油などの調味料に至るまで、酵母が多く含まれています。他にも、チーズやヨーグルトなどの乳製品、パン、ビールや日本酒などのアルコール飲料にも酵母は含まれています。 酵母には、疲労回復や便秘予防、血糖値の上昇抑制、免疫力の向上、動脈硬化の予防効果などが期待されています。酵母の摂り方で、最もよいのは食事からバランスよく摂ることですが、酵母だけを含むサプリメントも市販されています。 では、なぜ酵母が体によいのでしょうか。実は私たちの腸内に住む腸内細菌によって分解され、体によいものに変えられていることが研究によって明らかになりました。 イギリスの研究チームは、腸内細菌が酵母を分解し、オリゴ糖を生み出していることを2015年1月に「Nature」誌に発表しました。酵母には、「αマンナン」とよばれる特徴的な細胞壁があります。本来、人間はαマンナンをうまく使えないのですが、今回の研究で腸内細菌のバクテロイデス・テタイオタオミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)が分解し、オリゴ糖を産生していることが明らかになりました。バクテロイデス・テタイオタオミクロンは、誰でも持っているような腸内細菌の仲間ですが、人間が酵母を体の中で活用するためには不可欠なことがわかりました。腸内細菌が大豆製品からエクオールを産生する
では、腸内細菌が代謝に関わっている食品は他にないのでしょうか。日本人にとって欠かせない大豆製品においても、腸内細菌が大きく関わっていることがわかっています。 女性ホルモンの1 つであるエストロゲンは髪や肌のツヤを保ち、血管や骨の健康も維持することが知られています。しかし、食生活のバランスの乱れや不規則な生活習慣で女性ホルモンのバランスが崩れることがあります。また、特に出産後や閉経時にはエストロゲンの分泌が一気に低下するため、体の不調を感 じる女性も多いです。 大豆イソフラボンに含まれるダイゼインとよばれる成分は、腸内細菌の力によりエクオールに変えられて、エストロゲンと同じようなはたらきをすることがわかっています。しかし、腸内細菌の違いによってエクオールを産生できる人とできない人がいることが明らかになっています。日本人においてエクオールを産生できるのは、約半分、つまり2人に1 人です。一方で、欧米人では約3割と少ないので、日本人は昔から大豆食品を摂取しているためエクオールを産生できる腸内細菌をもつ人が多いのかもしれないという説もあります。エクオールが産生できない場合には、イソフラボンのまま体に吸収されます。 最近では、エクオールが産生できない人のためにエクオールを直接摂取できるようなサプリメントも開発され、市販されています。 次に紹介する論文は、大豆製品に含まれる成分において、どのようなサプリメントが理想的か検討しています。イソフラボンがバランスよく含まれているサプリメントが理想的
アメリカの研究チームは、閉経後の女性に対してイソフラボンがバランスよく含まれているサプリメントを投与すると骨粗鬆症薬ほどではないものの、副作用もなく骨のカルシウムが保たれることを2015 年8 月に「American Journal of Clinical Nutrition」誌に発表しました。 閉経後の女性は、女性ホルモンが低下するため骨の密度が低下し、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)になりやすいといわれています。 大豆イソフラボンとひとことでいっても、ゲニステイン、ダイゼイン、グリシステインなどいくつかの種類があります。 研究チームは、閉経後の24 名の女性を対象にゲニステインを多く含むサプリメントやさまざまな比率で各種イソフラボンを含むサプリメント、また骨粗鬆症治療薬であるビスホスホネートなどを50 日間投与し、骨のカルシウムをどれくらい保てるかを比較しました。エクオール産生能の有無によって結果に影響が出る可能性を考え、サプリメントや薬の内服を開始する前に個々人のエクオール産生能を測定しておきました。 結果としては、骨粗鬆症の治療薬ほどではないもののイソフラボン各種をバランスよく含むサプリメントにおいて骨のカルシウム保持率が7.6%増加していることがわかりました。一方で、イソフラボンの中でもゲニステインを多く含んだサプリメントを服用しても、骨のカルシウム保持率の上昇は3.4%と低く、バランスよくイソフラボンを含んでいる方がよいことが明らかになりました。 骨粗鬆症治療薬の骨のカルシウム保持率は15%と、サプリメントより高かったので薬を飲んだ方がよいと思う方もいるかもしれません。しかし、骨粗鬆症治療薬は内服後に胸やけや吐き気がしたり、頻度は多くはないですが、あごの骨が溶けたり、異常な骨折を起こすなどの副作用が起きることがあります。研究チームは、副作用がなく、骨のカルシウムを保つことができるイソフラボンをバランスよく含むサプリメントは治療薬の1 つとして有効ではないかと結論づけています。さいごに
私たちが何気なく体によいと思って食べている酵母や大豆製品は、腸内細菌のはたらきがあってこそ体でうまく活用されていることがわかりました。女性ホルモンと同じようなはたらきをするエクオールを産生できるような腸内細菌は、日本人の2 人に1 人がもっているようです。エクオールを直接摂取できるサプリメントは日本でもすでに開発されていますが、将来的にはエクオールを産生できるような腸内細菌を摂取、または増やすような方法が開発されれば理想的かもしれません。参考文献
http://www.otsuka.co.jp/eql/equol/
1) Cuskin F, Lowe EC, Temple MJ et al. Human gut Bacteroidetes can utilize yeast mannan through a selfish mechanism. Nature. 2015 Jan 8;517(7533):165-9. doi: 10.1038/nature13995.
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25567280)
2) Pawlowski JW, Martin BR, McCabe GP et al.Impact of equol-producing capacity and soy-isoflavone profiles of supplements on bone calcium retention in postmenopausal women: a randomized crossover trial. Am J Clin Nutr. 2015 Sep;102(3):695-703. doi: 10.3945/ajcn.114.093906. Epub 2015 Aug 5.
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26245807)
医者 大塚真紀
腎臓、透析、内科の専門医。医学博士。
現在は夫の留学についてアメリカに在住。アメリカでは専業主婦をしながら、医療関連の記事執筆を行ったり、子供がんセンターでボランティアをして過ごしている。
アメリカにいても医師という職業を生かし、執筆を通して患者さんやその家族のために有益な情報を提供できたらと願っている。