メタボリックシンドロームとは、腸の周囲や臓器の周りに脂肪がたまることによって、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病が起こることをさします。お腹が出ている人は内臓脂肪がたまっている可能性が高いので要注意です。
今回はメタボリックシンドロームと腸内細菌に関する研究を紹介します。
放っておくと怖いメタボリックシンドローム
最近、お腹が出てきた、若い時よりお腹に脂肪がつきやすくなったという方は、もしかしたらメタボリックシンドロームになっている可能性があります。メタボリックシンドロームでは、内臓に多くの脂肪がつくことによって体にとって有害な物質が分泌され、高血圧や糖尿病、脂質異常症、動脈硬化などの生活習慣病を引き起こすといわれています。 生活習慣病の怖いところは、体の中に異変が起きていても痛くもかゆくも感じない点です。しかし、放っておくと心筋梗塞や脳梗塞など命に関わる病気を発症する恐れがあります。そのため、会社の健康診断などでは腹囲の測定と採血を行い、早めにメタボリックシンドロームを発見するように推奨されています。メタボリックシンドロームに善玉菌が効く可能性
メタボリックシンドロームや肥満に腸内細菌が関連することは今までの多くの研究で指摘されています。また、善玉菌の作用によってメタボリックシンドロームや肥満が改善するのではないかと考えられてきました。 善玉菌が肥満に良いとされる理由として、食物繊維を分解し、短鎖脂肪酸(酢酸、酪酸、飽和脂肪酸など)が産生され、全身の代謝を活発にすることが挙げられています。 実際に、ヒトに対して善玉菌を投与し肥満やメタボリックシンドロームに効果があるかどうか検証した研究を紹介します。 日本の研究チームは、2015年5月に肥満傾向にある人に善玉菌を投与すると体脂肪量の減少を認めることを「Journal of Nutritional Science」誌に報告しました。 同研究チームは、以前に同じビフィズス菌B-3を用いた動物実験において、体重や体脂肪量の減少、血糖値やコレステロール値の低下を認めたことを明らかにしており、今回はヒトを対象に研究を行いました。 肥満傾向にある男女52名をビフィズス菌B-3(500億/日)を投与するグループ(24名)と何も含まれていないカプセルを投与するグループ(28名)に分け、12週間内服をした後に体や血液にどのような変化が起こるか観察しました。 すると12週目の検査で、ビフィズス菌が含まれるカプセルを内服していたグループは、何も含まれていないカプセルを内服していたグループに比べて、体脂肪量が減少しただけでなく、肝機能障害を示す血液検査(AST, ALT, γGTP)の数値が改善したことが明らかになりました。 今回の研究から、善玉菌による抗メタボリックシンドローム効果が示されました。今後、肥満傾向ではなく、健康な人に投与した場合にどのような影響が起きるかなどを検証したいと研究チームは考えているそうです。腸内細菌が肥満やメタボリックシンドロームを引き起こす可能性
一方で、腸内細菌によって肥満やメタボリックシンドロームが引き起こされるという研究報告もあります。 アメリカの研究チームは、2015年10月に腸内細菌が過剰に増殖しているマウスにおいては、短鎖脂肪酸が産生され過ぎるため肝臓に脂肪が蓄積することを「Cell Metabolism」誌に発表しています。 食物繊維を腸内細菌が分解して産生される短鎖脂肪酸は、一般的に肥満やメタボリックシンドロームの抑制に良いとされていますが、やはり過剰だとよくないようです。 研究チームは、腸内細菌を過剰に増えないように保っているTLR5という受容体に遺伝子変異があると、過剰になった腸内細菌によって短鎖脂肪酸が産生され続け、結果的に脂肪沈着の原因になると考えています。TLR5は、細菌のフラジェリンというタンパク質を認識する受容体のことで、ヒトの約10%に遺伝子変異があるといわれています。 2016年6月には、異なるアメリカの研究チームがラットを用いた研究で、腸内細菌によって過剰に産生された酢酸が肥満を引き起こすことを「Nature」誌に報告しました。研究チームは、高脂肪食を摂取させたラットと通常の食事を摂取させたラットを比較すると、短鎖脂肪酸の1種である酢酸が、他の短鎖脂肪酸に比べて高めになっていることを発見しました。 また、酢酸を脳に直接注射したところ、インスリンの分泌増加が引き起こされることがわかりました。インスリンの分泌が増加すると空腹を感じ、必要以上に食べてしまうことがあります。酢酸は他にも、食欲を増進させるホルモンとして知られているガストリンやグレリンの分泌も増加させることが明らかになりました。 研究チームは、腸内細菌と各種ホルモンの増加の関係を明らかにするために、高脂肪食を食べたラットの便を他のラットに移植し、酢酸やインスリンの数値において同様の変化を認めることを確認しました。 今回の研究から、ラットにおいては高脂肪食を食べることによって腸内細菌が変化し、他の短鎖脂肪酸に比べて酢酸をより多く産生するため、結果的に肥満を招くことが示されました。 研究チームは、今後ヒトにおいても同様の変化が見られるか検証する予定であり、どのような研究結果が出るか興味深いです。さいごに
食生活の欧米化や運動不足によって、肥満やメタボリックシンドロームを発症する日本人が増えているといわれています。今回紹介した研究によると、善玉菌は肥満やメタボリックシンドロームに良い可能性があること、高脂肪食を食べ続けていると腸内細菌のバランスに異常が起こり、太りやすくなる可能性があることがわかりました。 バランスの良い食事、適度な運動を心がけ、健康を保つようにしたいものです。参考文献
1) Minami J, Kondo S, Yanagisawa N et al. Oral administration of Bifidobacterium breve B-3 modifies metabolic functions in adults with obese tendencies in a randomised controlled trial. J Nutr Sci. 2015 May 4;4:e17. doi: 10.1017/jns.2015.5. eCollection 2015.
(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26090097)
2) Singh V, Chassaing B, Zhang L et al. Microbiota-Dependent Hepatic Lipogenesis Mediated by Stearoyl CoA Desaturase 1 (SCD1) Promotes Metabolic Syndrome in TLR5-Deficient Mice. Cell Metab. 2015 Dec 1;22(6):983-96. doi: 10.1016/j.cmet.2015.09.028. Epub 2015 Oct 29.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26525535
3) Perry RJ, Peng L, Barry NA,et al. Acetate mediates a microbiome-brain-β-cell axis to promote metabolic syndrome. Nature. 2016 Jun 9;534(7606):213-7. doi: 10.1038/nature18309.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27279214
医者 大塚真紀
腎臓、透析、内科の専門医。医学博士。
現在は夫の留学についてアメリカに在住。アメリカでは専業主婦をしながら、医療関連の記事執筆を行ったり、子供がんセンターでボランティアをして過ごしている。
アメリカにいても医師という職業を生かし、執筆を通して患者さんやその家族のために有益な情報を提供できたらと願っている。