日本では、気管支喘息は子どもの8-14%、大人の9-10%に発症するといわれています。日本だけでなく先進国では気管支喘息やアトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどのアレルギー疾患が増加傾向にあります。
増加の理由は環境や生活様式、抗生剤の使用などではないかと推測されていますが、最近では腸内細菌も注目されているようです。
今回は喘息と腸内細菌に関連する研究を紹介します。
腸内細菌のバランスの乱れが喘息を悪化させる
気管支喘息では、空気の通り道である気道に炎症が起こっているので刺激に対して敏感になっています。敏感になっている気道は、ハウスダストの吸入や風邪などの感染によって刺激を受け、発作的に狭くなることがあります。 いわゆる喘息発作の時は、気道が狭くなっている状態であり、呼吸困難や咳、ゼーゼー、ヒューヒューというような喘鳴(ぜいめい)の症状が出ます。 気管支喘息は呼吸困難によって命に関わる可能性のある怖い病気であり、気道の炎症を抑えるステロイド薬の吸入治療がとても大切です。 気管支喘息の原因としては、ダニやホコリ、ペットの毛、喫煙などが挙げられますが、特定が難しいこともあります。一方で、最近は喘息のようなアレルギー疾患にも腸内細菌が関わっていることがいくつかの研究で明らかになっています。 例えば日本の研究チームは、2014年1月に抗生物質の使用によって腸内細菌のバランスが乱れると喘息を悪化させることを「Cell Host and Microbe」誌に発表しました。 研究チームは、マウスに対して抗生物質を使用して腸内細菌のバランスを崩すことで、肺にどのような影響が出るか検討しました。 マウスに抗生物質を使用すると腸内でカンジダとよばれる菌が増え、炎症を引き起こす物質を産生し、結果的に肺の中にまで影響を与えて喘息を悪化させることがわかりました。 カンジダはカビの1種で、健常な人の腸内にも存在していますが、腸内細菌のバランスが崩れると悪さをすることがあります。 研究チームはさらに、カンジダを死滅させる薬やカンジダが産生した炎症物質を抑える薬を喘息のマウスに投与すると改善することも明らかにしました。 今回の研究から、喘息は遺伝的な要素や環境要素が原因とされていますが、なかには腸内細菌の乱れによって増殖したカビが原因であるものが含まれている可能性があると考えられました。生後3か月の腸内細菌が喘息の発症リスクに影響する
乳幼児319名を対象とした研究では、生後3か月の腸内細菌が喘息の発症リスクに関連していることが明らかになっています。 カナダの研究チームは、生後3か月と1歳時の便、1歳時のアレルギーテストと喘鳴の有無について調べました。1歳でアレルギー検査が陽性で、喘鳴の経験がある子どもの77%は将来喘息を発症する可能性があることが今までの研究でわかっています。 そのため今回の研究では、1歳時にアレルギー検査陽性グループ(喘息発症のハイリスクグループ)と陰性グループの腸内細菌を比較しました。すると、喘息発症のハイリスクグループでは、フィーカバクテリウム、ラクノスピラ、ベイロネラ、ロシアという4種類の腸内細菌が少ないことが明らかになりました。 また、研究チームはマウスを使った実験で、4種類の腸内細菌を移植すると肺の炎症を抑えられることを示しました。今回の結果をそのまま人にあてはめてよいかは今後の検討が必要ですが、少なくとも生後3か月という早い時期の腸内細菌が喘息の発症に関連している可能性はあるようです。腸内細菌を喘息の治療に活かすには
では、腸内細菌を喘息の治療法として活用することはできるのでしょうか。 腸内細菌が関連する病気に対しては、善玉菌を含むプロバイオティクスが投与されて、その効果を見ることが多いです。喘息に対してプロバイオティクスを投与した研究はいくつかあり、その効果は賛否両論でした。 しかし、アメリカの研究チームから2013年に発表された報告によると、今までに行われた研究結果を解析したところプロバイオティクスはアトピー性皮膚炎の発症リスクを低下させることはできるものの、喘息発症のリスクを低下させることはできないと結論付けられています。 今までのいくつかの研究でプロバイオティクスの効果が賛否両論であったのは、プロバイオティクスに含まれる菌の種類と観察期間によっても結果が変わる可能性があるからではないかと考えられました。 一方で、2016年に中国の研究チームから発表された報告で興味深いものがあったので最後に紹介します。 研究チームは、喘息の患者を対象に特異的免疫療法を行うグループ、プロバイオティクスを投与するグループ、特異的免疫療法とプロバイオティクスの両方を行うグループ、何も治療を行わないグループにわけて、6か月間経過をみました。 特異的免疫療法は、アレルギーの患者さんに行われる治療の1つで、アレルゲンとなる物質を薄い濃度から皮下注射し、徐々に濃い濃度に上げていき、アレルギーを起こさないように身体を慣らす方法です。しかし、頻回に病院に行かなければいけないことと最低でも2年以上は注射を続けた方がよいことが欠点といわれています。 研究結果としては、プロバイオティクスと特異的免疫療法の治療を合わせたグループにおいて喘息の症状を抑えただけでなく、炎症やアレルギーに関わる物質の産生も抑制できたことが明らかになりました。 また、その効果は特異的免疫療法のみ行ったグループが2か月間であったことに対し、両方を行ったグループでは12か月以上持続したそうです。 今回の研究から、プロバイオティクス単独ではなく、他の治療法にプロバイオティクスを追加することで、喘息を抑制できる可能性があることが明らかになりました。対象となっているのが288名と小規模なので、今後多くの人を対象とした研究が行われることが期待されます。さいごに
アレルギー疾患の1つである気管支喘息は、近年増加傾向にあります。命に関わることもあり、原因の特定や吸入ステロイド以外の治療法に注目が集まっています。 今回紹介した研究によると、腸内細菌も喘息の発症に関わっている可能性は高そうですが、治療法としては未だ確立されていないようです。今後の研究に期待したいです。参考文献
http://www.sho-jin.com/tiryou/rokui/
1) Kim YG, Udayanga KG, Totsuka N et al. Gut dysbiosis promotes M2 macrophage polarization and allergic airway inflammation via fungi-induced PGE₂.Cell Host Microbe. 2014 Jan 15;15(1):95-102. doi: 10.1016/j.chom.2013.12.010.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24439901
2) Arrieta MC, Stiemsma LT, Dimitriu PA et al. Early infancy microbial and metabolic alterations affect risk of childhood asthma. Sci Transl Med. 2015 Sep 30;7(307):307ra152. doi: 10.1126/scitranslmed.aab2271.
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3) Elazab N, Mendy A, Gasana J et al. Probiotic administration in early life, atopy, and asthma: a meta-analysis of clinical trials. Pediatrics. 2013 Sep;132(3):e666-76. doi: 10.1542/peds.2013-0246. Epub 2013 Aug 19.
http://pediatrics.aappublications.org/content/early/2013/08/13/peds.2013-0246
4) Liu J, Chen FH, Qiu SQ et al. Probiotics enhance the effect of allergy immunotherapy on regulating antigen specific B cell activity in asthma patients. Am J Transl Res. 2016 Dec 15;8(12):5256-5270. eCollection 2016.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5209480/
医者 大塚真紀
腎臓、透析、内科の専門医。医学博士。
現在は夫の留学についてアメリカに在住。アメリカでは専業主婦をしながら、医療関連の記事執筆を行ったり、子供がんセンターでボランティアをして過ごしている。
アメリカにいても医師という職業を生かし、執筆を通して患者さんやその家族のために有益な情報を提供できたらと願っている。