妊娠さんの約7割が経験したことがある便秘。妊娠中はお腹に赤ちゃんがいるため、いつもの便秘薬を飲んで良いのか、お腹のマッサージをしても良いのか、自己判断に迷うことがたくさんあります。そこで妊婦さんが便秘になる原因や対処法について、ウパウパハウス岡本助産院の院長であり、助産師の岡本登美子先生にお話をうかがいました。
妊婦さんの約7割が便秘で困っている
マイナビニュースの 『ママの7割が「妊娠中の便秘」を経験–原因と対策は?』という記事によると、妊娠を経験したことがある女性500名のうち7割が便秘の経験があるそう。しかも、500名のうち73%のママは「妊娠中は便秘になりやすい」ことを知っていたのだとか。ママにとって妊娠中の便秘は周知の事実なんですね。
妊婦さんのなかには、便秘が深刻な悩みになっている方も少なくないようです。岡本先生のもとにも、妊婦さんからは便秘についてこんな声が寄せられるそうです。
「妊娠前は快便だったので対策方法が分からない」
「主治医に自分から便秘の相談をするのは恥ずかしい」
「妊娠前も便秘だったので、妊娠後1週間以上出ないことは気にならない」
「ひどい便秘になり産婦人科で宿便を出してもらった」
「便秘がひどく痔になってしまい、産後もつらい思いをした」
「赤ちゃんに影響があると怖いので、便秘薬はガマンしていた」
しかし、なぜ7割もの妊婦さんが便秘を体験するのでしょうか。まずは岡本先生に、妊娠すると便秘になりやすい原因を聞いてみました。
妊娠による便秘の原因とは?
妊娠しているかどうかにかかわらず、現代の女性の2人に1人は便秘だと言われています。もともと女性の骨盤は赤ちゃんを育てるために横に広がっているので、大腸にうんちが溜まりやすい。男性は骨格も大きくて骨盤が縦型なので、比較的便秘になりにくいんです。
女性は月経前に黄体ホルモン(プロゲステロン)が出ます。黄体ホルモンは腸の蠕動(ぜんどう)運動を低下させる働きがあるためうんちが出にくくなり、身体が水分を吸収しやすくなるためうんちが固くなりやすくなります。
妊娠すると流産防止のために子宮収縮を抑えようと、子宮や腸の筋肉の働きも抑えるため、結果的に便秘になりやすくなるのです。それに、お腹の赤ちゃんが大きくなるほど子宮が増大するため、消化管が圧迫されてさらに便秘になりやすくなります。
また、つわりも関係しますので、妊娠周期によって便秘の原因は変わるのです。
初期から中期:黄体ホルモンの影響とつわりによる食欲減退
中期から後期:黄体ホルモンの増加と子宮増大による消化器官圧迫
さらに、腹筋が弱いことも便秘の原因のひとつ。うんちを出すときのお腹にフッと力を入れて踏ん張る行為は、腹筋がないとできません。妊娠中に腹筋を鍛えるわけにはいかないですが、普段から腹筋を意識することはとても大事なことなんです。
妊娠による便秘で出産時や産後に困ること
妊婦中に便秘が続くと、いぼ痔(痔核)になりやすくなります。便秘と同様に黄体ホルモンの影響と子宮圧迫が主な原因です。
肛門周囲はたくさんの血管(静脈)があり、子宮が大きくなることで直腸を圧迫し、うっ血することで、いぼ痔(痔核)が形成されます。
妊娠中に黄体ホルモンの分泌量が増え続けることも大きな関係があります。黄体ホルモンの影響で腸蠕動の抑制が高まるほど便秘になりやすく、便秘だといぼ痔になりやすくなります。便秘によって力まかせに踏ん張ったり、りきみ過ぎたときにうっ血するのが大きな原因です。
いぼ痔になってしまうと、出産時でいきんだときに悪化して、椅子に座ったり、トイレでしゃがむとき、お風呂に入ると激痛が走ることがあります。産後は赤ちゃんのお世話で慌ただしくなるため、いぼ痔にならないように便秘は改善しておきましょう。
おすすめの便秘マッサージと対策
私は妊婦さんにおすすめしている便秘マッサージは、昔ながらの「の」の字マッサージです。流産のリスクが高い妊娠初期は避けて、安定期に入った中期以降に行うのが安心です。
「の」の字マッサージの方法
1.へそ下の右側に右手を置く
2.右手を下に向かってさする
3.へそに向かって「の」の字を書くようにぐるっと回す
腸に刺激を与えるイメージでゆっくりと、1度につき3回程度繰り返しましょう。お風呂上がりにボディオイルを塗りながらおこなってもよいですし、洋服の上からでも十分腸に刺激は伝わります。お腹に赤ちゃんがいるので、強い力で長く押さないように注意してください。1日2回朝晩に行うのが適度でしょう。
まとめ
女性の骨格や黄体ホルモンの分泌が原因で、妊娠するとどうしてもなりやすくなる便秘。便秘が原因でいぼ痔にならないように、できるだけ早く便秘解消をしておきたいものですね。妊娠中は眠気やダルさが強く、新しいことを始めるのが億劫になりがち。ただし、便秘を解消したいなら、お風呂上がりお腹に妊娠線予防のクリームを塗りながら「の」の字マッサージをおこなうなどしてみるのもおすすめです。普段の生活のついでに対策を加えると、習慣づけしやすくなりますよ。
ライター コバヤシマユコ
手作りの発酵食品とヨガで腸活をするフリーライター。息子のアレルギー改善策としてはじめたのがきっかけの腸活ですが、今ではすっかり生活の一部になっています。
便秘よりも下痢になりやすい体質。下痢になったら米麹の甘酒を飲んで、腸を整えています。
ウパウパハウス岡本助産院 院長・助産師
長崎大学医学部付属助産師学校卒業。長崎県の離島・五島列島での産婦人科医院と、東京都港区・愛育病院勤務を経て、神奈川県川崎市にウパウパハウス岡本助産院を開院。『妊婦さんやママの手助けをしたい』という想いから、コミュニティスぺース「ウパウパハウスぷらざ」や産後ケアを行う「ウパウパ産後ケアハウス」、また待機児童を減らすために「ウパウパハウス保育園」を開設。2013年神奈川県看護賞を受賞。
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