肥満と腸内細菌の関係については、さかんに研究が行われています。例えば腸内細菌のバランスが崩れると肥満になるということがわかっています。しかし、肥満の発症には食事や運動、遺伝的要因など多くの原因が考えられるためダイエットによい腸内細菌はわかっていませんでした。今回は、やせる腸内細菌「クリステンセネラセエ(Christensenellaceae)」と肥満との関係について明らかにした研究を紹介します。

やせる腸内細菌の発見
アメリカの研究チームは、416組の双子を対象に肥満と腸内細菌の関連を調べ、痩せている人の腸内にはクリステンセネラセエという菌がいることを発見し、2014年11月に「Cell」誌に発表しました。 まず、研究チームは1卵生の双子171組、2卵生の双子245組、双子以外の98人の腸内細菌を解析しました。


やせる腸内細菌を飲んでダイエット!?
クリステンセネラセエ以外でも、将来のダイエット治療になる可能性がある面白い研究について紹介します。 アメリカの研究チームが、食欲を抑制する物質であるNAPEを産生できるように遺伝子改変した大腸菌をマウスに飲ませたところ食欲が抑えられたことを2014年8月に「The Journal of Clinical Investigation」誌に発表しました。 食欲を抑制するNアセチルメタノラマイド(NAE)という物質は、腸管で作られています。研究チームはNAEに注目し、NAEの前駆物質であるNAPEを大量に合成できるように大腸菌の遺伝子を操作し、マウスに8週間、水に混ぜて口から与えました。すると高脂肪食を摂らせても肥満にならず、食欲を抑えられることがわかりました。また、生きた大腸菌を投与しているので、投与を中止しても最低で4週間は腸内に住みついて効果が持続することを確認しました。肥満解消だけじゃない。生活習慣病予防にも期待!
今回は、将来「細菌ダイエット」として期待できる研究を2つ紹介しました。肥満は体質だからとあきらめずに、やせる腸内細菌を飲むことでダイエットに成功できたら肥満だけでなく、肥満に関連する糖尿病や高血圧、心疾患なども減らせる可能性があります。 しかし、まだ人に応用するにはいくつかの壁があります。遺伝に影響を強く受けるクリステンセネラセエをもともと持っていない人が飲むだけでやせられるのか、どれくらいの量を飲めば効果が得られるのか、そして2つ目の研究に関しては遺伝子改変を行っている腸内細菌が体の中に入ると悪影響はないのか、などが挙げられます。遺伝子組み換え物質に対しても抵抗を感じる人が多い日本で、果たして受け入れられる治療となるのかわかりません。 クリステンセネラセエを多く含んだヨーグルトを食べると痩せる!なんて、魅力的だとは思うのですが、将来に期待しましょう。参考文献
1) Goodrich JK;Waters JL; Poole AC1 et al. Human genetics shape the gut microbiome. Cell. 2014 Nov 6;159(4):789-99. doi: 10.1016
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25417156)
2) Chen Z; Guo L; Zhang Y et al. Incorporation of therapeutically modified bacteria into gut microbiota inhibits obesity.J Clin Invest. 2014 Aug;124(8):3391-406. doi: 10.1172/JCI72517.
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24960158)
医者 大塚真紀
腎臓、透析、内科の専門医。医学博士。
現在は夫の留学についてアメリカに在住。アメリカでは専業主婦をしながら、医療関連の記事執筆を行ったり、子供がんセンターでボランティアをして過ごしている。
アメリカにいても医師という職業を生かし、執筆を通して患者さんやその家族のために有益な情報を提供できたらと願っている。