健康で快便の方は、腸内細菌の多様性があるといわれています。一方で、便秘は腸内細菌のバランスが乱れている証拠と考えられています。今回は、便秘と腸内細菌に関する研究を2つ紹介します。
便の硬さを見れば腸内フローラの豊かさがわかる
お腹の調子は、便の硬さや排便回数でわかります。理想は、1日1回以上するりと便が出ることです。一般的に、便が硬く、便秘の場合には腸管の中を便が通過する時間が長く、水分量が減っている状態といわれています。一方で、やわらかすぎるのは水分が多い証拠で、腸管を通過する時間も短いと考えられます。 では、便の硬さと腸内細菌の間にはどのような関係があるのでしょうか。 ベルギーの研究チームは、健康な女性53人の便の硬さと腸内細菌の関係を調べ、便がやわらかいほど腸内フローラが豊かであることを2015年6月に「Gut」誌に発表しました。 研究結果によると、便の硬さは腸内細菌の種類と関係していることがわかりました。腸内細菌は多様性がある方が健康といわれていますが、便の硬さが硬くなるほど腸内細菌の多様性が低下していました。 また、硬い便の場合には、ルミノコッカス-バクテロイデス(Ruminococcaceae-Bacteroides)やアッカーマンシア(Akkermansia)、メタノブレビバクター(Methanobrevibacter)が多く含まれていました。 やわらかい便には、プレボテラ(Prevotella)が多くなっていました。プレボテラは、炭水化物や食物繊維を多く含む食事をしていると増えるといわれており、食物繊維などによって便の中の水分が多くなりやわらかい便になるのではないかと考えられました。 腸内細菌の多様性がある方が健康であることがわかっていますが、硬い便では腸内細菌の多様性が減り、特定の種類の菌が増加するようです。一方で、やわらかい便は食物繊維などを多く含む食事で増えるプレボテラが多くなっていることがわかりました。 もし、便秘がちで便が硬くて困っている方は食物繊維の摂取量を増やせば、腸内細菌の多様性が増して便秘を解消できるかもしれません。便秘は善玉菌が減っている証拠
便秘では、腸内細菌の多様性が減っていることがわかりました。次に、実際に便秘を手術で解消したら腸内フローラがどのように変化したかを明らかにした研究を紹介します。 中国の研究チームは、がんこな便秘で悩んでいる患者に対して結腸の一部を切除する手術をしたところ、術後6か月には善玉菌であるビフィズス菌や乳酸菌が増えていたことを2015年2月に「The American Surgeon」誌に発表しました。 長く続く便秘で悩んでいる方は多いかもしれませんが、中には下剤を通常量の2倍以上内服している方や下剤だけではどうにもならず浣腸を頻回に併用している方もいます。原因としては、腸の長さが長めであったり、腸の動きが悪いということなどが考えられます。今回の論文は、中国から発表されたもので約130cmある結腸を約10cm程度残して切除する手術をがんこな便秘の方に行っています。がんこな便秘に対して腸を短くする手術は以前から世界で行われており、日本でも内視鏡とよばれるカメラを使って行っている病院があります。 ちなみに腸は全体では約1.5mあり、肛門側から直腸、S状結腸、下行結腸、横行結腸、上行結腸、盲腸となっており、結腸は最も長い部分です。 研究では、がんこな便秘の方17名と健康な方5人を対象に便と腸管の粘膜に存在する腸内細菌を調べました。腸管の粘膜の腸内細菌は、大腸カメラで粘膜を採取して調べます。 がんこな便秘の方に対しては、腸を切除する手術前と手術後6か月の腸内細菌の組成を調べました。 結果としては、がんこな便秘の方では手術前には善玉菌であるビフィズス菌と乳酸菌が健康な方に比べて少なかったですが、手術後6か月の時点では増加傾向になっていたそうです。 つまり、便秘の場合には善玉菌が減少しており、便秘が解消されると元に戻っていることがわかりました。さいごに
今回は、便秘と腸内細菌に関連する研究を2つ紹介しました。 便秘の場合には、腸内細菌の多様性が減少するだけでなく、善玉菌も減っていることが明らかになりました。 善玉菌が減少し、腸内細菌のバランスが崩れると肥満や糖尿病などさまざまな病気を発症させるといわれています。 便秘が続いている方は、食物繊維を摂るように心がけて毎日快便を目指しましょう。毎日の排便のモニタリングには「ウンログ」を使ってみると楽しく排便管理ができるかもしれません。参考文献
http://www.ims-itabashi.jp/laparo/ope/cs_daichou_mansei.html
1) Vandeputte D ; Falony G ; Vieira-Silva S et al. Stool consistency is strongly associated with gut microbiota richness and composition, enterotypes and bacterial growth rates. Gut. 2016 Jan;65(1):57-62. doi: 10.1136/gutjnl-2015-309618. Epub 2015 Jun 11.
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26069274)
1) Vandeputte D ; Falony G ; Vieira-Silva S et al. Stool consistency is strongly associated with gut microbiota richness and composition, enterotypes and bacterial growth rates. Gut. 2016 Jan;65(1):57-62. doi: 10.1136/gutjnl-2015-309618. Epub 2015 Jun 11.
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2) Feng X ; Su Y ; Jiang J et al. Changes in fecal and colonic mucosal microbiota of patients with refractory constipation after a subtotal colectomy. Am Surg. 2015 Feb;81(2):198-206.
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25642885)
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25642885)
医者 大塚真紀
腎臓、透析、内科の専門医。医学博士。
現在は夫の留学についてアメリカに在住。アメリカでは専業主婦をしながら、医療関連の記事執筆を行ったり、子供がんセンターでボランティアをして過ごしている。
アメリカにいても医師という職業を生かし、執筆を通して患者さんやその家族のために有益な情報を提供できたらと願っている。