コプリ菌という名前を聞いたことがあるでしょうか。関節リウマチや血糖値と関連があるといわれている腸内細菌の一種です。コプリ菌が腸内にたくさんいると体によくない、または体の不調のサインとする研究もありますが、一方でコプリ菌がいた方がよいとする報告もあります。
今回は日本人に多い腸内細菌のタイプから最新のコプリ菌の研究までわかりやすく紹介します。
ヒトには大きく分けて3つのエンテロタイプがあるらしい
世界的科学誌である「Nature」に掲載された報告によると、ヒトの腸内細菌は国や人種、食生活などで大きく3 つのパターン(エンテロタイプ)にわけられるといわれています。1, バクテロイデス属が多いタイプ
アメリカ人や中国人に多く見られるタイプ。炭水化物が少なく、タンパク質や脂肪分を多く摂る人によく見られる。最近の研究では、バクテロイデスには肥満を防止する作用があるとされ注目されている。2, プレボテラ属が多いタイプ
アジア人、中南米やアフリカの人に多く見られるタイプ。 炭水化物や食物繊維の摂取が多い人に見られる。3, ルミノコッカス属が多いタイプ
日本人やスウェーデン人に多く見られるタイプ。1 と2 のグループの中間的な食事をしている人に見られる。 ルミノコッカスが腸内に増加すると糖質や脂質の蓄積が促進される可能性があり、脳梗塞や心筋梗塞の発症と関連するといわれている。 例えば日本人やスウェーデン人の約80%以上はルミノコッカス型といわれていますが、残りの約20%は食べている食事の内容などによってバクテロイデスやプレボテラが多いグループにわけられることがあります。ちなみに今回紹介するコプリ菌の正式名称は、プレボテラ・コプリというので2 番目のプレボテラ属の腸内細菌です。コプリ菌は関節リウマチに関係している
プレボテラ属であるコプリ菌は、日和見菌であり腸内の環境でよくも悪くもなるようです。 今回紹介する研究では、新規に発症した関節リウマチ患者の便を調べたところ健常な人に比べてコプリ菌が多く発見されたと報告されています。 具体的には、新規発症の関節リウマチ患者44 名、健常者28 名、発症から時間が経過し治療を開始している関節リウマチ患者26 名の便を解析しています。 結果は、新規発症の関節リウマチ患者のうち75%(33/44 名)にコプリ菌が発見されたことに対し、健常者では21.4%(6/28 名)、治療中の関節リウマチ患者では11.5%(3/26名)であり、新規発症の関節リウマチ患者において明らかに多いことがわかりました。 研究チームによるとコプリ菌は、炎症細胞を活性化するはたらきがあり、関節リウマチに特徴的な関節の炎症を起こしているのではないかと考えられています。 一方で、発症から時間が経過し治療中の関節リウマチ患者においてコプリ菌が多く発見されなかったのは、関節リウマチの治療薬である炎症を抑える薬によってコプリ菌も抑制されているからではないかと推測されています。結局、コプリ菌は良い者?悪者?
繰り返しになりますが、プレボテラ属であるコプリ菌は日和見菌であり腸内の環境でよくも悪くもなるといわれています。ここでは、コプリ菌が悪者とする研究と良い者とする研究を2 つ紹介します。 2016 年に「Nature」誌に発表された研究によると、腸内細菌のバランスの乱れがインスリン抵抗性を引き起こすことが明らかになっています。インスリン抵抗性とは、血糖値を下げる作用のあるホルモンのインスリンの効きが悪くなっている状態のことで2 型糖尿病や心臓病と関連しているとされています。 インスリン抵抗性がある人では、腸内細菌に特徴的な変化が生じていることがわかり、具体的にはコプリ菌とバクテロイデス・ブルガトゥス菌が増えていたそうです。 研究チームは次に、コプリ菌をマウスに3 週間にわたって投与し、ヒトと同じ変化が出るか検証しました。 すると予想通り、インスリン抵抗性が増加したしたそうです。つまり、コプリ菌が腸内に増えすぎるとインスリン抵抗性が増加し、糖尿病や心臓病の発症に関連する可能性があることが明らかになりました。 一方で、2015 年に「Cell metabolism」誌に発表された研究では、食物繊維を食べることで血糖値を改善するためにはコプリ菌の力が必要であると報告されています。 研究では食物繊維を多く含む全粒大麦パンをヒトに3 日間食べてもらい、血糖値の変化と便中の腸内細菌を解析しました。食物繊維を食べて血糖値が改善したヒトの腸内において、コプリ菌を多く発見できたそうです。 コプリ菌は食物繊維を食べている人の腸内に多く存在することがわかっており、もしかすると血糖値が改善したヒトはもともと食物繊維の多い食事をしていたのかもしれません。 どちらにしても今回の研究から、食物繊維を食べるだけではなく、腸内にいるコプリ菌が協力することによって血糖値がより改善する効果が期待できる可能性があると考えられました。 次に研究チームは、血糖値が改善され、コプリ菌を多くもっていたヒトの便を無菌マウスに移植してみました。すると、便移植されたマウスは食物繊維を多く含むエサを食べた時に血糖値が改善されたということです。つまり、コプリ菌が腸内に存在している上で、食物繊維を食べると血糖値のコントロールがよくなる可能性があることがわかりました。さいごに
今回は日本人の腸内細菌でも発見されることのあるコプリ菌についてまとめました。コプリ菌は日和見菌なので、腸内環境や食事内容によって良くも悪くもなるようです。 日本人はエンテロタイプでいうとルミノコッカスが多いグループにわけられる人が多いようですが、食物繊維を多く摂るように心がけている人は腸内にコプリ菌が増える可能性もあります。 コプリ菌は新規発症の関節リウマチと関連するといわれていますが、紹介した研究からもわかるように健常者からもコプリ菌は検出されています。 研究結果や腸内細菌の結果は1 つだけ見て一喜一憂するのではなく、多くの情報をバランスよく考察するのが大切です。 まとめると、食物繊維の多いバランスの良い食事を摂っていれば、コプリ菌もきっと体に良い影響を与えてくれるのではないかと期待されます。腸内細菌も食事もバランスが大事ということかもしれません。参考文献
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(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27409811)
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(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26552345)
医者 大塚真紀
腎臓、透析、内科の専門医。医学博士。
現在は夫の留学についてアメリカに在住。アメリカでは専業主婦をしながら、医療関連の記事執筆を行ったり、子供がんセンターでボランティアをして過ごしている。
アメリカにいても医師という職業を生かし、執筆を通して患者さんやその家族のために有益な情報を提供できたらと願っている。