ストレスがかかると胃が痛くなったり、便秘や下痢になったり、精神状態と胃腸の働きには、何か関係がありそうですよね。
腸内細菌は、ヒトの健康にさまざまな影響を及ぼすことがわかってきていますが、心の状態にも関与しているのでしょうか?
精神の状態と腸内細菌の関係についての研究論文をご紹介します。
腸と脳は密接に連携して私たちを生かしている
「腸脳相関」という言葉を聞いたことがありますか?
たとえば、胃腸が消化管が空腹であることを知らせる刺激を迷走神経から、脳に伝えれば、脳は、食欲を感じ、ホルモンを分泌して、胃腸に食べ物を受け入れるように命令を送ります。
また、脳がストレスを感じると自律神経から腸へ刺激が伝わり、お腹の具合が悪くなります。
このように、腸と脳は、密接に連携して、生命を維持しています。このような腸と脳の関係を「腸脳相関」といいます。
腸と脳の双方向のネットワークは、自律神経やホルモン、サイトカインなどの情報伝達物質を介して築かれています。
さらに、神経伝達物質であるセロトニンの9割以上は、腸で生産されています。
腸は、脳のように神経ネットワークを持っていて、脳と作用し合う臓器であることや、腸内に入ってきたものが良いものか、悪いものかを腸自体が判断するといわれていることから、腸は、「第二の脳」ともいわれています。
腸内フローラが性格や心の状態に影響を与えていた
そんな腸と脳の関係が、最近の研究によって、また一つ解き明かされました。
「米国科学アカデミー紀要」に掲載された論文をご紹介します。
マウスによる実験で、①腸内フローラを持たない無菌状態に保たれたマウス、②腸内フローラを持つマウス、③①に②の腸内フローラを移植したマウスに対して、自発的な活動性を測定するテストや不安様行動を評価するテストを行い、行動、性格を比較したものですその結果は、
①の腸内フローラを持たない無菌マウスは、②の腸内フローラを持つマウスより、運動が活発で、不安様行動の回数も有意に少なかったことが報告されています。 また、③の腸内フローラを移植したマウスでは、幼い時に移植したマウスは、もともと腸内フローラを持つマウスに近い行動を示したけれど、成体となった後に移植したマウスは、無菌マウスと同様の行動を示しました。
この他、①無菌マウスは、内臓の萎縮や奇形があったり、健康なマウスに比べて、生命維持のための必要カロリーが多かったり、他のマウスとのコミュニケーションがとれない傾向にあったことが報告されています。
このことから、腸内細菌がマウスの脳神経の発達に影響を与えていることが明らかになりました。ヒトにおいても同様に、成長期の腸内細菌との関わりが、性格に影響を与える可能性があることが示唆されました。
しかし、認識したり、行動を司るのは、脳です。その脳へ到達する前には、「血液脳関門」というバリアがあり、病原菌や有害物質が脳に入り込めないようになっています。腸内で作られたセロトニンやドーパミンといった神経伝達物質も入れないといわれています。
このような環境で、いったいどのように腸内にいる腸内細菌が、脳神経に影響を及ぼしたのでしょう?
それは、腸内細菌が、腸の神経を刺激して発生した電気信号が、迷走神経を通って、血液脳関門を通過し、中枢神経に伝えられるというのが、有力な説です。
心の病を緩和させる「サイコバイオティクス」とは?
腸内細菌が脳神経に働きかけ、精神状態に影響を及ぼしていることが確認されつつあり、有用な微生物すなわち腸内細菌の働きを利用して、セロトニン欠乏で起こるうつ病や不安障害などを治療していこうという研究が進められています。
このように、ヒトの精神状態を変化させることができる微生物のことを「サイコバイオティクス」といいます。
マウスでの研究では、
など、有用な報告が増えてきています。
マウスのうつ病にビフィズス菌が有効であったことから、ヒトへの有用性も期待が高まります。
腸内細菌が、性格や行動にまで影響を及ぼしているとは、腸内細菌の働きはどこまですごいのでしょうか。
あらためて、日々の生活の中で腸内フローラを育て、腸内環境を整えることが重要であることがわかりますね。