赤ちゃんのうんちチェックでみんな笑顔に 女性博士がスマホアプリ「Babyうんち」を作ったワケ

うんちは体調のバロメーターですが、実は、生まれたばかりの赤ちゃんの病気のサインにもなるのをご存知ですか?

赤ちゃんのうんちチェックができるアプリを作り病気の早期発見に役立てようと考えたのが、ご自身も2人のお子さんを持つ、聖路加国際大学講師の星野絵里先生。開発計画を立てていた星野先生は、ウンログ田口とたまたま知り合い意気投合。ウンログがサポートにあたり、遂に、スマホアプリ「Babyうんち」が誕生しました。星野先生の「Babyうんち」への想いや、今後の展望を共同開発者のウンログ・田口がうかがいました。

赤ちゃんのうんちを判別するアプリを作って、病気予防に役立てたい!

母子手帳の「便色カード」は、とても大事。でも、判断が難しい。

田口
星野さんが臨床研究として取り組まれているスマホアプリ「Babyうんち」のリリースから2年が経ちました。改めて、「Babyうんち」*を作ったきっかけから聞かせてください。

*「Babyうんち」は、うんち画像やアンケートから赤ちゃんが胆道閉鎖症など6つの病気の可能性について判定できるアプリ。胆道閉鎖症は、新生児期に約1万人に1人の割合で発症し、放置して肝硬変になると死に至ることもある難病。病後の経過を良好に保つには生後1か月以内の早期の発見が鍵となる。

星野
母子手帳の「便色カード」のページって知ってますか?
うんちの色に1番から7番までの番号がついていて、1番から3番に該当した場合に、胆道閉鎖症の疑いがあるということで受診を促すようになっています。私が上の子を産んだ頃は自治体によって対応がまちまちでしたが、2012年に全国一律で「便色カード」が挟まれるようになりました。母子手帳は妊婦全員に配布されるので、このページが胆道閉鎖症をスクリーニングする役割を担ってもいます。でも、このページを知らない親御さんって結構いるんですよ。

田口
僕もアプリを開発するにあたって、子育て中の友人に尋ねたことがあるんですが「便色カード」のことを知りませんでした。

星野
もうひとつ課題だと思っていたのが、うんちの色の判別の難しさです。
赤ちゃんのうんちって母乳かミルクかによっても色が違います。私の時はまだ「便色カード」が導入される前で、自分の子どものうんちを「レモン色」とか「アボガド色」などとノートに記録していました。医者にも「アボガド色のうんちが……」って相談するんだけれど、結局、その場にあったポスターの色を指差して説明したり。そんな経験から客観的にうんちの色を判断できるように、当時はまだガラケーでしたけれど写真を撮るようになりました。

田口
スクリーニングのための母子手帳の「便色カード」の認知の低さと、そもそも、うんちの色の判別が難しいという原体験がアプリ開発のきっかけとなっているんですね。

他人事じゃない!赤ちゃんの病気予防に役立てたい思いから始まった

星野
自分の子どもが胆道閉鎖症だったというのもあるのですが、現代の科学技術を応用したスクリーニング方法の開発で赤ちゃんの病気予防に役立てたいという思いが根底にあります。
胆道閉鎖症になる赤ちゃんのほとんどは生まれた時は健康です。発症時期はまちまちで胆管が詰まるに従ってうんちの色が薄くなります。
でも、毎日赤ちゃんのお世話をしていると、うんちの色の変化に気づくのは難しい。そもそも、うんちの色から胆道閉鎖症かどうか判断するのも簡単なことではありません。これまで50人以上の医療関係者にうんちの画像テストをしましたが、胆道閉鎖症と完璧に当てられたのは1名のみでした。

田口
その点、「Babyうんち」は主観に頼らずうんちの画像を用いてリスクの判定ができるのがいいですね。母子手帳の「便色カード」にも「定期的にチェックしてください」という記述がありますが、病気のサインに気づくためにはうんちの色の変化をチェックすることが大事になんですね。

星野
そうです。「Babyうんち」でも、その日の画像で判別ができない場合、「また明日撮ってくださいね」とユーザーにお知らせして、経時的なデータ収集ができる仕組みにしています。
赤ちゃんをスマホで撮るついでに、うんちも撮るといったように気軽にチェックができるといいな、と。胆道閉鎖症は、早期に発見して手術ができれば自己肝生存率が高まり予後もよくなります。一方、発見が遅れてしまった場合は肝臓移植が必要です。日本ではアメリカのようなドナー制度はなく、両親から生体肝移植してもらうのがメイン。健康な身体にメスを入れなくてはなりません。本人だけでなく家族にも影響が出るシリアスな病気です。

田口
ママもパパも他人事ではないわけですね。自分の肝臓を提供する可能性があるんだから。

星野
そうそう。一方で、年間の発症者は100人とごくわずかなので、あまり怖がらせてもいけないというのもあって。啓発の難しさを感じています。

ウンログが共同開発者として加わり軌道に乗ったアプリ開発

人が人をつないで生まれたプロジェクト

田口
もともとウンログが観便アプリ「ウンログ」を作っていた経緯もあり、この「Babyうんち」にも関わらせていただくことになりました。初めてお会いしたのは、「Baby うんち」ローンチの半年前くらいでしたよね。

星野
聖路加国際大学の研究室に、リサーチキット(医療研究用のオープンソースのソフトウエアフレームワーク)の案内にきていたApple担当者に紹介いただいたのがきっかけでした。

田口
たまたまウンログが出ていたイベントにそのApple担当者の方がいらっしゃっていて、「うんちのことやってるなら興味ないですか」と星野さんのプロジェクトのことを教えてもらいました。星野さんとの対面後、とんとん拍子で話が進み、アプリ開発の協力が決まったんですよね。

星野
「Babyうんち」のプロジェクトは、課題をどういう方法で解決するかというビジョンは当初から明確にあったんです。ウンログさんと出会えて、そのビジョンをスムーズに現場に落としていける体制を整えられたのはありがたかったですね。田口さんの人柄に助けられたのはもちろん、ウンログ技術者の伊藤さんと、AIの専門家でアプリのロジック面を手がけてくださった私の同僚である林先生のタッグも生まれて。文科省から研究助成を獲得でき、予算がついたのも大きかったです。

胆道閉鎖症はまれな疾患。うんち画像集めが課題だった

田口
アプリ開発を進めるにあたって課題はありましたか?

星野
アプリの判別能力を高めるのに必要な枚数の胆道閉鎖症のうんち画像を集めることですかね。そもそもの発症数が少ないですから。
ただ、たまたま私の子どもが胆道閉鎖症だったというので個人的に保存していた画像があったのと、順天堂大学、長崎大学など専門医の方たちの協力があって、想定外にスムーズに進みました。

田口
正解と不正解の判断を機械学習するために、画像は重要です。そこは本当にがんばっていただきありがとうございました。僕が大変だったのは、社内の説得です(笑)。
「利益出せるのか」と協力に反対する声も出ましたが、「理念に共感して、社会的インパクトが出せるのだから、やろうよ!」と呼びかけて。CTOの伊藤が興味持ってくれたので開発は伊藤に任せて、僕はひたすら社内調整に奔走しました。

今年4月、新たな取り組みとして高知県と共同の実証実験がスタート

どんな環境でもうまく動作するアプリにしたい。技術陣が泊まり込みでアルゴリズムを精査

星野
胆道閉鎖症にはうんちの色の判別が重要になるのですが、画像判別するにも光源によって色が全然違ってしまうという課題があって。
先日も、自然光、LED、白熱灯など異なる光源6パターンのうんち画像をお渡しして、光源の影響を補正してほしいと依頼したら、研究室に泊まり込んで解決策を考えて下さりました。林さん伊藤さんの技術チームには、本当に支えてもらっていますね。

田口
自主的に開発合宿を企画したという(笑)

星野
私も依頼してはいたものの、前日まで合宿のことを知らされていなくて。「え〜、明日からそんなことやるの?」とびっくりしました。

田口
合宿を訪ねてみたら、ホワイトボードにびっしり数式が書かれていて。RGBをHSVに置き換えたら、Vが光源に影響するからVを無視して、HSだけで計算できるように……と議論が白熱していました。
技術チームもですが、ビジョンや想いに共感して、星野さんのプロジェクトには本当に様々な専門家がチームとして加わってくれていますよね。

星野
みんな、私に巻き込まれていっていますね(笑)。伊藤さんや林さん他にもたくさんの方に協力いただけて本当に助かっています。

研究合宿が生んだ想定外の技術革新も

田口
実はあの合宿にはおまけがあって、うんちの画像からブリストルスケール(便の状態を測る国際基準)を測定する方法が見えてきたんですよ。うんちの色だけでなく形状を判別する技術革新は、ウンログの発展にもつながるはず!
赤ちゃんが対象というのもあり胆道閉鎖症の手術はすごく難しいそうですが、手術画像と予後のデータをセットで解析すれば言語化されていない手術の“コツ”を客観的に提示できるかも!とアイデアの種も出ていました。だから、あの合宿は毎週やった方がいいと思うんですよ(笑)。

星野
いやいやいや。大変ですよ。2人ともダンボール敷いて研究室で寝てるんですから(笑)。そうそう課題といえば、そこですね。皆さんの情熱頼みだと、サステイナブルにプロジェクトを回していけないので、それは課題です。

取り組みを全国に広げ、より使えるアプリに

田口
そうした課題も踏まえつつ、最後に今後の展望を教えてください。

星野
高知大学の小児外科の先生のご尽力もあり、今年4月から3年計画の高知県全県を対象としたアプリの実証実験のプロジェクトを始めました。これはお母さんにというよりも医療従事者の方に1か月健診1ヶ月検診の際に、プロ専用の「(仮称)Babyうんちプロ版」で撮ってチェックをしてもらおうという取り組みです。
これまでも申し上げてきた通り胆道閉鎖症は発症数が少ないのでデータの収集には母数を大きくすることが重要です。ゆくゆくは、この取り組みを全国に広げ、エビデンスを蓄積してアプリに反映させていきたいですね。

田口
ひとつの県から協力を得られたというのは大きな一歩ですね。本日は長時間ありがとうございました。

【プロフィール】
聖路加国際大学 臨床疫学センター 公衆衛生大学院
講師 星野 絵里

ウンログ株式会社
代表取締役社長 田口 敬
個人でアプリ開発を行い、2012年7月にうんち記録アプリ「ウンログ」をリリース。1年間で10万DLを達成。サービス拡張の為、2013年8月に法人化。健康見える化サービスとして、ウンログアプリの開発・事業に取り組む。

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