【発酵な人vol.5:月岡紋萌さん】罪悪感のない発酵スイーツ「くず餅」でみんなをしあわせに

発酵にまつわる商品やサービスに関わる人たちにフォーカスしてお話をうかがう連載「発酵な人」。今回の「発酵な人」は、唯一の発酵和菓子「くず餅」を販売している船橋屋さんの広報・月岡紋萌さんと一緒にくず餅をいただきながら(!)くず餅の製造工程や乳酸菌、商品の魅力についてお話をうかがいました。読み終わる頃にはくず餅が食べたくなること必至です。

発酵期間450日!職人の手仕事で作られる発酵和菓子

ナガセ:
なにを隠そう私が船橋屋さんの大ファンなので、今回はお話を聞けるの本当に嬉しいです!

駅ビルやデパートで見つけるとついつい買っちゃうんですよね…。

月岡さん:
ありがとうございます!もともとは亀戸にある店舗だけだったんですが、この20年くらいで百貨店にも展開するようになって、お客様に知っていただける機会も増えてきました。実際に「買っているよ」と言っていただけると嬉しいですね。

ナガセ:
くず餅って、透明でプルプルしたお菓子をイメージされる方も多いと思いますが、船橋屋さんのくず餅は白くて弾力が強いですよね。

月岡さん:
そうなんです。実は、同じくず餅という名前でも関東と関西では全く別物なんですよ。透明なくず餅は主に関西圏で親しまれているもの。原料に葛粉を使っているので、名前もそのまま「葛餅」です。葛粉に水と砂糖を加えたものを加熱して作るので、発酵はしていません。

船橋屋をはじめとした関東圏のくず餅は、原料に小麦でんぷんを使っています。船橋屋のくず餅は小麦でんぷんを450日かけて発酵させるんです。長期に発酵させることで弾力が生まれるんですよ。

ナガセ:
450日!1年以上も発酵させるんですね。

月岡さん:
発酵させたあとに15分ほど蒸しあげて完成するんですが、発酵0日のものはそもそも固まりません。発酵期間を短くして200日程度で蒸しあげてみたこともあるんですが、それも全く弾力がなく味も独特の発酵臭があっておいしくなりませんでした。いろいろな調整を重ねて、450日がベストな発酵期間だったんです。

とはいえ、450日間発酵させると全てが同じになる訳ではありません。水の温度や蒸しあげる時間を変えて同じ弾力になるように調整しています。ほとんどが職人の感覚に任されているんです。

ナガセ:
すごい手間がかかってますね。やっぱり1日に作れる量にも限界があったりするのでしょうか?

月岡さん:
お店で提供しているのが9切で1皿なんですが、それに換算するとだいたい1万食ほどを作っています。手間はかかっていますが、今は沖縄と岐阜に工場があり、発酵はそこで行っているのでたくさんの量を生産することができています。

ナガセ:
1万食!もはや想像できない量です。それが亀戸の工場に集められて蒸しあげられるんですね。しかも、ひとつひとつが職人さんの手仕事だと思ったら、これまで以上にありがたみが増してきます。

独特の食感を生み出すのは乳酸菌のチカラ!

ナガセ:
くず餅の発酵で主に働いているのは、「くず餅乳酸菌」という菌なんですよね。どのような乳酸菌なのでしょうか。

月岡さん:
くず餅の原料を発酵させている発酵槽の中から発見された、L.パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)という植物性乳酸菌の一種を「くず餅乳酸菌」と名付けて商標登録しました。発酵槽から見つかった乳酸菌は全部で13種類ありましたが、その中から強い菌を分離して培養に成功しました。

ナガセ:
日本の発酵食品の名前がついた乳酸菌なんて素敵ですね!楽しみです。

くず餅そのものは200年以上の歴史がありますが、乳酸菌が発酵に関わっているというのは研究をしてわかったということなんでしょうか。

月岡さん:
そうですね。昔からのお客様に「くず餅を食べるとなぜか調子がいい」というお声をいただいていて、10年前に専門家の協力を得て調べたところ、この乳酸菌が見つかりました。最近の研究ではくず餅乳酸菌が免疫細胞の活性をあげることが示唆されています。

ナガセ:
さまざまな研究も進めているんですね。サプリメントへの展開もされていますよね。

月岡さん:
「REBIRTH」というサプリメントで、1日分90億個のくず餅乳酸菌を配合しています。もっと皆さまの健康に寄与できればという思いから、くず餅乳酸菌を手軽にとれるサプリメントを開発しました。
ナガセ:
私はくず餅そのもので腸活できるなら喜んで毎日食べるんですが(笑)。消費期限の心配をせずにいつでも摂取できるハードルの低さは腸活実践者としてはすごく嬉しいですね!

サプリメント以外にも商品展開のバリエーションがたくさんあるのもおもしろいです。

月岡さん:
粉末化したくず餅乳酸菌や培養液を使った商品を展開しています。店頭で販売しているかき氷のシロップやあん焼き[黒蜜きなこ]などは乳酸菌入りなんです。ホテルニューオータニさんとのコラボレーションでもさまざまなスイーツに取り入れていただきました。

ナガセ:
くず餅=和菓子というイメージなので、ホテルニューオータニとのコラボレーションは洋菓子やパンの展開で、そんなこともできるのか、とびっくりしました!

販売店でもプリンやブランマンジェといった洋菓子も販売されていますよね。「200年続く和菓子の老舗」というイメージとは少し違った印象ですが、どんな狙いがあるんでしょうか。

月岡さん:
お客様から見るといろいろな事業に手を出している、と思われてしまうかもしれませんね。だけど、船橋屋は「くず餅一筋真っ直ぐに」というビジョンが絶対。なので洋菓子やサプリメントへの販売も、くず餅への興味を持ってもらうためのきっかけ作りなんです。

ナガセ:
くず餅乳酸菌も、くず餅そのものを健康や腸活といった側面から知ってもらうためには大きなインパクトを与えていると思います。健康的なライフスタイルには欠かせないおやつの代表になっていきそうですね。

くず餅は心も体もしあわせにできる

ナガセ:
月岡さんご自身はもともと発酵に興味があったんですか?

月岡さん:
実は、全く興味なかったんです。それどころか、船橋屋もくず餅も全く知りませんでした。就職活動の中でインターンを受けにきた時に初めてくず餅を食べたんですが、すごく美味しかったけど発酵食品という印象は残らなかったんです(笑)。

ナガセ:
乳酸菌によって発酵していて、今研究を進めているような効果があるなんて想像もしてなかったんですね。

月岡さん:
そうなんです。なので発酵和菓子だと理解した時は、「美味しいうえにプラスαでこんないいことがあるのか!」と驚きました。

お菓子は甘くて美味しくて、食べるとしあわせな気持ちになりますよね。だけど、糖質過多やカロリーなど気になることも多いです。くず餅は、食べると幸せになるのはもちろん、発酵食品でカロリーも低く、添加物も使っていません。食べることで健康を害さない、健康づくりのお手伝いができる、というのが魅力だと思っています。

ナガセ:
罪悪感がなく食べられるというのも魅力のひとつですよね。もちろん食べ過ぎはダメだと思いますが、食べることに対して後ろ向きな気持ちを抱えなくていい、というのは嬉しいです。

月岡さんご自身もほぼ毎日食べてらっしゃるんですよね。

月岡さん:
そうなんです。ちゃんと自分で購入して食ベることが多いです(笑)。

私自身も、くず餅を食べるようになってから体の軽さを感じています。あと、入社してから体重も落ちて、それから増えなくなりました。

ナガセ:
ええ!やっぱり私も毎日食べようかな!

月岡さん:
ぜひ(笑)。

ナガセ:
今では月岡さんにとって発酵は欠かせない存在になっていると思うんですが、発酵って一体どんなものなんでしょうか?

月岡さん:
体が欲するものだと思います。私もほぼ毎日食べていますが、お客様の中にも「なんでかわからないけど食べたくなる」とか「週1回は食べないとソワソワする」という方もいらっしゃるんです。自分の意思とは関係ないところで、体や腸内細菌が欲しているのではないかと思いますね。

ナガセ:
無意識に体が幸せを求めているっていうことなのかもしれませんね。

月岡さん:
そうですね。みなさんの心と体のしあわせのお手伝いができていると思うと嬉しいです!

ナガセ:
最後に、今後の船橋屋さんの展開や展望について教えてください。

月岡さん:
発酵の力で日本を元気にするために、くず餅乳酸菌の研究をはじめとしたくず餅や発酵の魅力の多角的な発信は今後も強化していきたいです。また、より多くの方にくず餅を知っていただくというミッションに向けて、発酵や乳酸菌をテーマにした新しい展開を準備しているところです。

ナガセ:
新しい展開!楽しみですね。

月岡さん:
ちょっとまだ詳細は言えないんですが…ぜひお楽しみにしていてください!

まとめ

くず餅は心も体もしあわせにしてくれる、という月岡さん。店舗で取材中も絶えずお客様がくず餅を求めてお店にやって来ていました。店舗スタッフのみなさんと購入して店を出るお客さんの笑顔がすてきで、私までしあわせな気持ちになってしまいました。「くず餅が好き」という気持ちがしあわせを醸しているのかもしれません。きっと月岡さんもくず餅の魅力によって醸されてしまったひとり。これからさらにくず餅でしあわせになる人を増やしてくれるのではないでしょうか。
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