腸内細菌は人種によって異なることは以前から指摘されていましたが、最近、日本人の腸内細菌の特徴が報告されました。日本人が世界で最も長寿な原因や肥満が少ない理由の解明になるのではないかと期待されています。今回は、日本人に特徴的な腸内細菌に関する研究を紹介します。
日本人は世界に誇れる良い腸内細菌を持っている!?
日本の研究チームは、日本を含めた12か国のヒトの腸内細菌のデータを解析し、健康な日本人には炭水化物を分解すると産生される水素を利用し、無駄なく栄養素を作る腸内細菌が多いことを発見し、2016年4月に「DNA Research」誌に発表しました。 研究チームは、19-60歳までの健康な日本人男女106人の腸内細菌と欧米や中国などに住む755人の腸内細菌を比較しました。すると、いくつかの日本人に特徴的な腸内細菌の特徴が明らかになりました。- ビフィズス菌やブラウチアなどが優勢で、古細菌が少ない。
- 炭水化物やアミノ酸代謝の機能に優れている腸内細菌が多い。
- DNAが傷ついた時に修復する機能をもつ腸内細菌が少ない。つまり、DNAが傷つきにくい腸内環境である。(DNAが傷つくとがんを発生させるといわれています。)
- 日本人の腸内細菌は水素を酢酸生成のために使う一方で、他の11か国の腸内細菌は水素から体に有害なメタンを生成するために使われている。
- 日本人の約90%でノリやワカメなどの海藻を消化する腸内細菌を認めたのに対し、外国人では15%以下だった。
- 日本・オーストリア・フランス・スウェーデン
- アメリカ・中国・デンマーク・スペイン・ロシア
- マラウイ・ベネズエラ・ペルー
日本人の子供もやっぱり良い腸内細菌を持っていた!
日本人の子供の腸内環境に関する研究報告もあります。 日本の研究チームは、アジアの5つの国と地域(中国、日本、台湾、タイ、インドネシア)の子供を対象に腸内細菌の解析を行い、日本人の子供は他国に比べてビフィズス菌が多いことを2015年2月に「Scientific Reports」誌に報告しました。 日本、中国、台湾、タイ、インドネシアの都会と地方それぞれに住む子供たち303人を対象に、腸内細菌と食習慣のアンケートを解析しました。子供の年齢は7-11歳でした。 解析の結果、アジアの子供には2つの腸内細菌叢のグループがあることがわかりました。 1つは、ビフィズス菌とバクテロイデス属細菌を主体とするBBタイプで日本、中国、台湾の子供に認められました。 もう1つは、インドネシアとタイに多く見られるプレボテラ属細菌を主体とするPタイプです。プレボテラは食物繊維の分解酵素が強いことがわかっており、消化しづらいでんぷんや食物繊維の多い食事をよく食べる東南アジアでPタイプが多いことの要因になっているのではないかと推測されています。 日本人の子供は、最初に紹介した日本人の大人の結果と同様に、アジアの中でも他国に比べてビフィズス菌が多く、腸内環境が良いことが明らかになりました。さいごに
日本人の子供と大人がもっている腸内細菌の特徴に関する論文を2つ紹介しました。健康な日本人では、子供の頃から腸内環境が良いことが明らかになりました。しかし一方で、日本人の子供はアレルギーが多いこともわかっているので、腸内細菌がどのように関わっているのか解明されることが期待されます。 日本人の食事は近年欧米化しており、糖尿病や肥満、心疾患が増加傾向といわれています。このように食事や環境が変化した時に、腸内細菌はどのように変化していくのでしょうか。将来、アメリカ人の腸内細菌と日本人の腸内細菌が似ている特徴をもつようになるのでしょうか。少なくとも野菜を多く含むバランスの良い食事を摂ることは、腸内細菌にも体にもよいことがわかっています。日本人に特徴的な腸内細菌を維持するためにも毎日健康的な食事を心がけるようにしましょう。参考文献
1) Nishijima S; Suda W; Oshima K et al. The gut microbiome of healthy Japanese and its microbial and functional uniqueness. DNA Res. 2016 Apr;23(2):125-33. doi: 10.1093/dnares/dsw002. (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26951067)
2) Nakayama J; Watanabe K; Jiang J et al. Diversity in gut bacterial community of school-age children in Asia. Sci Rep. 2015 Feb 23;5:8397. doi: 10.1038/srep08397. (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25703686)
医者 大塚真紀
腎臓、透析、内科の専門医。医学博士。
現在は夫の留学についてアメリカに在住。アメリカでは専業主婦をしながら、医療関連の記事執筆を行ったり、子供がんセンターでボランティアをして過ごしている。
アメリカにいても医師という職業を生かし、執筆を通して患者さんやその家族のために有益な情報を提供できたらと願っている。