長寿も痩せ菌も!  先祖から受け継いだ日本人の腸内細菌パワー

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腸内フローラの構成菌には国ごとに特徴があった

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ヒトには百兆個以上もの腸内細菌が生息しているといわれています。

腸内細菌によって構成される腸内細菌叢(腸内フローラ)が、人それぞれ違うことはご存知だと思いますが、実は国ごとで比べた場合でもそれぞれ違った傾向があり、日本人ならではの特徴があるとしたら面白いことだとは思いませんか?

そんな研究をしたのが、早稲田大学の服部正平(はっとりまさひら)教授と東京大学の西嶋傑(にしじますぐる)博士課程学生らの共同研究グループでした。

彼らは、メタゲノム解析と呼ばれる手法により、健康な日本人男女106名の腸内フローラを解析し、欧・米・中国人などの11カ国755人のそれと比較しました。

そして、日本人の腸内フローラには約500万の遺伝子があることを発見し、外国人のそれと合わせると約1,200万の遺伝子があること、そして国が同じ被験者の腸内フローラを調べた結果、違う国の被験者同士のものと比べて類似性が高いこと、つまり国ごとに特徴的な腸内フローラが形成されることなどを明らかにしました。

ちなみに、このメタゲノム解析と呼ばれる手法は、研究者たちに顕微鏡が発明されたのと同じくらいのインパクトを与えた最新の解析手法なのだそうです。

細菌を調べるとき、昔はそのひとつひとつを単離して培養していました。

しかし、培養が困難なものも多く、そもそもいったいどのくらいの細菌数が存在しているかもわからない状況で解析を進めるのは途方も無い作業でした。

そこで、一度個別の培養を諦め、細菌叢(さいきんそう)を丸ごと遺伝子解析してしまおうというのがメタゲノム解析なのです。

この手法を用いることで、他の細菌との複雑な相互作用などを総合的に理解することができ、さまざまな研究分野での発展が期待されています。

長寿で肥満が少ないのは先祖伝来の腸内フローラのおかげ

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上記共同研究グループは同時に、日本人の腸内フローラが諸外国のそれに比べて人体に有益な機能をたくさんもっていることを明らかにしました。

たとえば、欧・米・中国人などの腸内フローラのうち、その多くが水素から不要なメタンを発生させたのに対し、日本人の腸内フローラは栄養素を発生させるものが多かったこと、日本人の腸内フローラのうち、約90%は海藻類を分解する酵素遺伝子を持つのに対し、外国人の腸内フローラは最高で約15%しかそれを持っていなかったことなどです。

さらに日本人の腸内フローラには傷ついたDNA遺伝子を修復するための遺伝子が少なかったのですが、これはそもそもDNAが傷つきにくい腸内環境であることを表しています。

善玉菌であるビフィズス菌やブラウチア等が多く古細菌が少ないことも明らかになりました。

今回の国別データ比較解析によって、こうした腸内フローラの特徴が日本人の長寿・低肥満と関連していることが示唆されました。

腸内フローラは母から子へと遺伝していくことが分かっていますが、私たち日本人が先祖代々受け継いできた腸内フローラはとても優秀なものだったのです。

日本の子どもの腸内環境はビフィズス菌が多く善玉菌優勢

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もう一つ興味深い報告があります。

それは、腸内環境でみる限り、日本人の子どもはアジアの中では健康的という内容です。

これは、2015年九州大学の中山准教授、ヤクルト中央研究所の渡辺博士らによって見出されました。

中国、日本、台湾、タイ、インドネシアの5つの国・地域で調査した結果、日本人の子どもの腸内フローラには、他国と比べビフィズス菌が多く、善玉菌が優勢であることが判明したのです。

また、細菌の検出自体も少ないことがわかりました。

これらの原因は、遺伝や発酵食品の多い日本人特有の食生活などが関係していると考えられていますが、優良な腸内細菌を持つ腸内フローラである反面、すべてのビフィズス菌が有効に働いているか不明であり、さらなる研究が必要であるといえます。

いかがでしたか?

近年の研究により、腸内フローラは宿主の健康状態や体型に大いに影響することがわかってきました。いわゆる長寿菌や痩せ菌、デブ菌と呼ばれる菌があることも明らかになっています。

肥満が少なく、日本が世界第一位の長寿大国である理由は、先祖代々連綿と受け継がれてきた腸内フローラの国民性にあるといえましょう。

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