食事面だけに注目されがちな「腸活」。しかし、真に「腸に良い生活」を目指すのであれば、食事以外にもさまざまなアプローチから「腸」のことを考える必要があると言われています。そこで、腸内研究の第一人者である藤田先生に、食事や運動、睡眠までを含めた「腸活の基本」についてうかがいました。
腸が健康な状態ってどういうこと?
はじめに、私たちが目指すべき「健康な腸」とはどのような状態なのかうかがいました。
善玉菌が優位で、日和見菌の数が多いことが「腸が健康な状態」
腸内細菌は、大きく分けて以下の3種類に分けられます。
・善玉菌
乳酸菌やビフィズス菌に代表的される、体にとって良い働きをする菌。免疫力のアップや、悪玉菌を抑えて腸内環境を整えるなどの働きをします。
・悪玉菌
ウェルシュ菌や大腸菌に代表される、体にとって悪い働きをする菌。腸内の腐敗を進めることで、有害物質や発がん性物質を増やしたり、腸内環境を悪化させます。
・日和見菌
善玉菌と悪玉菌のどちらにも属さない菌。多くは、私たちの身の回り、自然界にも浮遊する土壌菌です。善玉菌も悪玉菌も、最大で腸内細菌全体の2割までしか増えないため、日和見菌が腸内の大部分を占めています。この菌は、腸内の善玉菌と悪玉菌で優位な方の味方をするという性質があります。
このように、腸内にはさまざまな菌が存在しますが、その菌のバランスによって腸内環境が変動します。腸内で、善玉菌が優位かつ、日和見菌の数が多い状態が、健康に近いと言えるでしょう
腸内に定着している菌は人によって違う
腸内に定着している菌は、人によって異なります。これは、生まれてから3歳までの間に身の回りのどんな菌に触れたかで腸内に定着する菌が決まることが研究で分かっています。
実は、自分の腸内で増やすことができる菌は、すでに定着している菌だけ。世の中にはさまざまな腸活法や、腸活商品が存在しますが、何が効くかは定着している菌次第ということです。
自分の腸内に定着している菌を調べる方法は、まず菌を体内に取り込んでみること。例えば乳酸菌であれば、2週間飲み続けてください。腸活による腸の変化は2週間で起こるので、その2週間で肌や便通が改善した場合、それは腸内で菌が増えたということ。その菌が、定着している菌と近しい菌ということになります。
腸に良い日常生活の過ごし方とは
健康な腸を実現するために必要な、日常生活の過ごし方の3つのポイントについてお聞きしました。
①食事 発酵食品と食物繊維をバランスよく摂取
健康な腸をつくるために重要なのは、発酵食品を摂ることです。特に、漬物や味噌といった日本古来の発酵食品には、善玉菌や土壌菌が多く含まれているので、意識的に食べるようにするといいでしょう。
善玉菌を優位にするため、エサとなる食物繊維を摂取することも忘れてはいけません。食物繊維と発酵食品をバランスよく摂取することで、善玉菌が優位で日和見菌の数が多い健康的な腸を実現しましょう。
また、健康に良い食べ物として知られている納豆ですが、最近の研究では、ほとんど善玉菌が含まれていないということが分かっています。土壌菌の数は多いので、確かに健康には良いのですが、善玉菌と悪玉菌の優位な方に味方するという日和見菌の性質上、場合によっては体に良い影響を与えない可能性もあります。そのため、納豆を食べるときは、善玉菌が含まれるような他の食品と組み合わせて食べると良いと思います。
②運動 運動によって腸に刺激を与えることが重要
運動をすることで、腸も活性化します。ただ、必ずしも習慣的に運動をおこなう必要はありません。例えば、通勤中に階段を上ったり、一駅分を歩いて帰るなど、日常生活の中で適度に取り入れる形でも問題ないです。とにかく、まったく運動をしないというのは、避けるように。
また、適切な運動の強度は年齢によって変わるので注意が必要。激しい運動をすると、人間の体内には活性酸素が発生します。これは、老化や生活習慣病の原因ともなる酸素なのですが、若いときはこの活性酸素を抑える酵素を持っているので、あまり影響はありません。しかし、この酵素は年齢と共に減っていくため、中高年になってからは激しい運動を控えた方がいいでしょう。
腸に直接アプローチする運動という意味では、日常生活ではあまり行わない「ねじる動き」をすることで、腸を刺激し、活性化を促すことができます。
③睡眠 毎朝、決まった時間に朝食を摂ることで体内時計をリセット
人間は、ビタミンBやK、ドーパミンとセロトニン、免疫の70%など、さまざまなものを体内で作り出しています。これらは寝ている間に腸と腸内細菌が働くことで作られています。普段、日常生活を送っている時間には、体内のエネルギ―がそちらに使われてしまうため、腸が働くのは寝ている間だけなんです。
だからこそ健康な腸のために重要なのは、規則正しい睡眠リズムで、腸のはたらきをアシストしてあげること。睡眠の乱れは、腸の働きを妨げてしまうのです。
睡眠において最も重要なのは、睡眠時間の長さよりも睡眠のリズム。特に、朝決まった時間に起きることが大切です。私たちの体の生活リズムというものは、24時間10分で回っているとされているのですが、地球は24時間で回っている以上、そこには毎回10分のずれが生じますよね。このずれをリセットするのが、朝食と日光なんです。朝ごはんを食べることが難しくても、コーヒーを飲むだけでも効果はあるので、毎朝決まった時間にリセットすることを意識すると、腸のリズムが整います。
自分に適した腸活法を見つけるには?
食事、運動、睡眠それぞれに、さまざまな方法が考えられます。その中から、自分に適した腸活法を見つけるのには、時間がかかるかもしれません。
それでも、実際に試して、自分に合うやり方を探ってみることしか、自分に適した腸活法を見つける近道はないのです。「睡眠時間はこれくらい」「どんな腸活法を試したか」などを記録しながら、やり続けるのが良いと思います。
記録という意味では、うんちの記録もおすすめです。睡眠のバランスが崩れることで腸内環境が悪化したり、免疫が落ちるとコロコロうんちになったりと、うんちは優秀な健康のバロメーター。自分のうんちを記録して、健康状態を判断するのに活用してみてください。
まとめ
今回の食事と運動、睡眠のポイントは、どれか一つだけをおこなうと良いわけではなく、3つすべてが重要。ただ、私たちは年齢を重ねるにつれて、ちょっと悪い食事を食べただけで便秘になってしまうなど、腸内環境が変化しやすくなってしまうそうです。3つのポイントすべてをおさえて実践するのが難しい場合は、まずは食事から改善していくのを意識するとよいでしょう。
医師・医学博士・東京医科歯科大学名誉教授 藤田紘一郎
1939年旧満州(現中国領)生まれ。三重県育ち。
寄生虫学、感染免疫学、熱帯医学を専門とする医学博士。寄生虫博士として広く一般に知られており、15年間自身の腸内でも寄生虫(サナダムシ)を飼っていた。花粉症の原因の一つに寄生虫の撲滅が関係するという自説が持ち、アレルギーや腸に関する著書も出版している。『アレルギーに負けない体は「腸」がつくる 毎日の食べ方・暮らし方をどう変えるか』(実務教育出版)『子どもをアレルギーから守る本』(だいわ文庫)『アレルギーの9割は腸で治る! クスリに頼らない免疫力のつくり方』(大和書房)『腸内フローラ 医者いらずの驚異の力』(宝島社)など多数。
ライター 早川大輝
「エンタメ」と「食」が大好きな編集者。小さい頃から胃腸が弱く、刺激の強い食べ物・飲み物を摂取したときや、プレッシャーのかかるここぞという場面では必ずお腹を下す
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