日常生活で、ふとした瞬間に襲ってくる下痢。電車など、なかなかトイレにいけない環境で突然お腹を壊して、苦しんだ経験がある人も多いのでは?
今回は下痢による腹痛の原因と対処法、日常的にできる予防法について、内科の専門医である大塚真紀先生に聞きました。
なぜ起こる?下痢の原因と対処法
下痢になる原因は、「感染症」、ストレスや暴飲暴食、冷えなどの「生活習慣」、過敏性腸症候群や乳糖不耐症などの「体質」、大腸がんや潰瘍性大腸炎などの「疾患」の大きく4つに分類できます。
それぞれ、特徴的な症状と対処法を見ていきましょう。
①感染症による下痢・腹痛の症状と対処法
感染症による下痢は、ウイルスや細菌、寄生虫が原因。細菌やウイルスなどが腸で増えて腸の粘膜を傷つけたり、毒素を産生することで下痢になります。
感染症による下痢の特徴は、発熱、嘔吐、腹痛(ない場合もあります)、脱水などの症状が見られること。
感染症が疑われるときには、十分な水分を取り、腸を休めたうえで病院に行くようにしてください。
感染症の予防法としては、手洗い・うがいを徹底して、口から菌やウイルスが入ることを防ぐのが有効です。夏場は、感染の原因になりやすい生モノは加熱して食べるのが無難。冬場でも、カキなどの二枚貝の生食からノロウイルスに感染する可能性があるので注意が必要です。
②生活習慣による下痢・腹痛の症状と対処法
生活習慣による下痢の例としては、暴飲暴食、冷え、ストレス、人工甘味料の摂りすぎが挙げられます。
1)暴飲暴食
暴飲暴食をすると、飲食物を体内で分解しきれず消化不良になり、下痢になります。暴飲暴食による下痢は一過性のもので、腹部膨満感や吐き気があり、発熱はないのが特徴です。暴飲暴食の後に下痢になったときは、腸を休めるためにも消化の悪い食べ物は避け、消化の良いものを摂るようにしましょう。腸内細菌のバランスを整えてくれる整腸剤の内服もおすすめです。
●消化吸収が良いものの例
→おかゆ、よく煮込んだうどん、野菜スープ、リンゴのすりおろし、アイスクリーム(脂肪分の少ないもの)
●消化吸収が悪いものの例
→脂肪の多い肉や魚、そば、ラーメン、玄米、赤飯、生野菜、海藻、菓子パン、ケーキ、人工甘味料
2)冷え
身体が冷えると、腸の血流が低下して消化吸収が悪くなり、下痢を引き起こします。冷えによってお腹を壊しやすい人は、お腹をブランケットやカイロなどで温めるなど、身体を冷やさないことが大切です。
3)ストレス
ストレスで下痢・腹痛になる理由は、自律神経のバランスが崩れて、腸のぜん動運動が不規則になるため。なかには下痢ではなく、ストレスによって便秘になる人もいます。心窩部の不快感・吐き気といった特徴があれば、ストレスによる下痢の可能性があります。ストレスによる下痢の対処法は、何よりストレスを減らすことが肝心です。適度な睡眠と運動、バランスの良い食事を心がけ、入浴やヨガなどリラックスできる時間を作るようにしましょう。
4)人工甘味料の摂りすぎ
ジュースなどに多く含まれる人工甘味料は、浸透圧が高いのが特徴。人工甘味料をたくさん摂ると、腸内では上がった浸透圧を元に戻そうと、腸管壁から水分を引き出す作用が働きます。それにより水分過多となり、下痢になることも。人工甘味料の含まれるジュースやお菓子などを大量に摂取したときに下痢になる場合は、このようなメカニズムが関係しています。
下痢に繋がる人工甘味料の多量摂取は、控えるよう心がけましょう。
③体質による下痢・腹痛の原因と対処法
体質による下痢の例としては、乳糖不耐症、アレルギー、薬の副作用があります。
1)乳糖不耐症
牛乳を飲むとお腹を壊すという人は、乳糖不耐症である可能性が高いです。乳糖不耐症とは、牛乳の中に含まれる「乳糖(ラクトース)」を分解する消化酵素「ラクターゼ」の分泌不足によって引き起こされる症状のこと。下痢・腹痛のほか、おならといった症状が出る人もいます。
乳糖不耐症の場合は、牛乳を控えることで症状を抑えられます。
2)過敏性腸症候群
過敏性腸症候群の特徴は、会議や学校に行く前にいつも下痢になるなど、慢性的な下痢・腹痛があること。なかには、便秘と下痢を繰り返すタイプの人もいます。過敏性腸症候群の人は、腸のぜんどう運動が活発なので、食べたものが短時間で腸を通過してしまいます。そのため十分な水分が吸収されず、下痢になってしまうのです。
過敏性腸症候群はストレスや生活のリズムの乱れによって発症するもので、改善も可能だといわれています。過敏性腸症候群が疑われるときには、まず自分の生活習慣を見直してみるとよいかもしれません。最近では内服薬もあるので、症状が続く場合には医療機関を受診して、医師に相談することをおすすめします。
3)アレルギー・薬の副作用
下痢が、アレルギー症状のひとつであるケースもあります。これは、アレルギー反応によって腸の粘膜がむくみ、消化吸収能力が低下することで引き起こされます。下痢と同じタイミングで皮膚にぶつぶつ(発疹)や赤みが見られたり、むくみ、嘔吐、腹痛、呼吸困難、咳といったほかのアレルギー症状が出る場合には、アレルギーによるものと判断できます。
また、抗生剤は腸内細菌のバランスを崩すため、薬の副作用で下痢になることも。
抗生物質、抗がん剤、便秘薬などの内服後に下痢になった場合は、薬の副作用だと思われます。疑わしい薬剤は医師に相談し、中止するようにしましょう。
④疾患による下痢・腹痛の原因と対処法
下痢は過敏性腸症候群、大腸がん、潰瘍性大腸炎、糖尿病といった疾患の兆候であるケースもあるので、注意が必要です。
症状に下痢を含む主な疾患と、下痢・腹痛以外の特徴をまとめてみました。
●大腸がん
→発熱、体重減少、便秘、血便
●潰瘍性大腸炎
→腹痛、体重減少、血便、発熱
●糖尿病
→しびれ、めまい、視力低下、疲れやすい、体重減少、口渇、多飲、多尿
●慢性膵炎
→背中やみぞおちの鈍い痛み、体重減少、水に浮く黄色い便
●クローン病
→発熱、全身倦怠感、腹痛、食欲低下、体重減少、口内炎
●バセドウ病
→動悸、イライラ、体重減少、頻脈
下痢に加えてこういった症状がある場合には、一度病院で受診することをおすすめします。早期発見のために、定期的に大腸検査を受けるのも良いと思います。
場面別!下痢・腹痛の対処法
①毎日下痢になる
毎日お腹を下す場合、原因としては食生活の乱れやストレスによる過敏性腸症候群、冷え、乳糖不耐症などが考えられます。
慢性的な下痢で悩んでいる人は、自分の生活習慣を見直すことで改善が期待できます。
食生活では、肉や脂っこいもの、甘いものは控え、野菜を多くとるようにするのがおすすめです。ヨーグルトや発酵食品など、腸内環境を整える食品を摂るのも効果的。十分な睡眠と適度な運動、そしてストレスを減らすよう心がけ、体を冷やさないようにしましょう。
②旅行先など、慣れない場所で下痢になる
旅行時にお腹を壊すという人もいるかと思います。旅行中の下痢は、食事内容の変化によるお腹への負担、見知らぬ土地で過ごす不安やストレスが主な原因。場所によっては、衛生環境の悪さによって細菌や寄生虫に感染し、下痢になることもあります。
旅行先や慣れない場所でお腹を壊すことが多い人は、旅先での生ものや水、氷などの摂取は控えることをおすすめします。また夜更かしは避け、しっかり寝るようにしましょう。
③生理前に下痢になる
生理前に下痢や腹痛などの症状が出る場合、月経前症候群(PMS)の可能性があります。
生理前の下痢は、女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンの急激な変化によるものと考えられていて、生理開始とともに症状がよくなることが特徴です。
腹痛や下痢以外に、便秘になる人も。そのほか、動悸、頭痛、めまい、疲労感、むくみ、にきび、不眠、便秘、イライラ、涙もろくなるなど、さまざまな症状が出ることがあります。
PMSによる症状の対処法としては、バランスの良い食事や適度な運動に加え、ストレス解消を心がけるのが良いとされています。
下痢・腹痛の予防法3選!突発的な下痢を止める方法はある?
残念ながら、私たちが自分の意志で腸の動きをコントロールするのは不可能です。
自分の意思で下痢を止めることは難しいですが、困ったときには、過剰な腸の動きを止めてくれる「下痢止め」を服用するのも一つの方法。下痢止めのなかには、腸内の水分調整をするものや、腸の粘膜の炎症を抑える作用があるタイプもあります。
突発的な下痢で困らないためには、普段から予防を心がけることが大切です。
下痢・腹痛の予防法① 食生活編
食生活では、腸内環境を整えるためにも脂っこい食事や甘いものに偏った食事は避け、野菜や魚、穀物などを中心としたバランスのよい食事を心がけましょう。また、アルコールを含むお酒や香辛料、炭酸飲料、コーヒーは刺激が強く、下痢の原因になることも。下痢・腹痛を予防するには、刺激物はできるだけ避けた方が無難です。
下痢・腹痛の予防法② 生活習慣編
日常生活では、お腹を冷やさないことがポイントです。昼間や就寝時などは、エアコンの設定温度を下げ過ぎないように気をつけましょう。職場の冷房が気になるときには、ブランケットを用意するなど工夫すると良いかと思います。
屋外から帰ってきたときの手洗い・うがいを徹底するのもポイント。感染症による下痢を防ぐことができます。
下痢・腹痛の予防法③ 運動編
適度な運動は、腸の動きをコントロールしている自律神経のバランスを整えるため、腸のぜんどう運動に良いといわれています。ストレスから下痢になりやすい場合も、運動によるストレス軽減効果により、良い影響が期待できます。
腸内環境を整えるには、ウォーキング、ジョギング、サイクリング、踏み台昇降運動など、軽く息が上がるような有酸素運動がおすすめ。
筋トレなどの無酸素運動に比べ、長時間続けられる有酸素運動には、便秘改善やストレス軽減、さらには肥満解消、生活習慣病の改善、認知症予防など多くの効果が期待できます。
まとめ
先生によれば、突発的な下痢をその場で止めるのは難しく、日常生活での「予防」が大切とのこと。普段から食生活や適度な運動に気を配ることで、腸内環境を改善していきたいですね。
医者 大塚真紀
腎臓、透析、内科の専門医。医学博士。
現在は夫の留学についてアメリカに在住。アメリカでは専業主婦をしながら、医療関連の記事執筆を行ったり、子供がんセンターでボランティアをして過ごしている。
アメリカにいても医師という職業を生かし、執筆を通して患者さんやその家族のために有益な情報を提供できたらと願っている。